アウディ・クアトロの悲劇 その2

前回から続く)

アウディの設計チームは、悩んでいました。自分たちの4WDラリーカーという設計思想は正しかったものの、後発のプジョー・206が前後重量バランスの良さを武器に自分たち以上の成績をあげている・・・。そこで、クアトロが採用したのがショートホイールベースでした。つまり、前後輪の間隔を狭めることにより、回頭性を向上させようとしたのです。機構的にも、ボディを切り詰めるだけなので、エンジン、トランスミッション、トランスファーといった主要な機構を見直さずにプロペラシャフトを詰めて対応でき、手間がかかりません。

ところが、これが大失敗。フロントヘビーという十字架を背負った上にホイールベースが短いためピーキーな挙動となり、ターンモーションに入りにくいけれど入った途端にスピンしやすいという、難しい車になってしまったのです。かつて、雨のアウトバーンを200kmでクルーズするならポルシェよりずっと楽だと賞賛されたスポーツ4WDの草分けは、こうして自らの黄金時代に幕を引くことになってしまいました。

自転車の世界でも、似たような事例があります。ストリートライディングを志すなら、BMXのような短くて回頭性の良い設計が必須です。そのために多くのMTBメーカーが行ったアプローチは、ホイールベースを短くするために、フレームの前半分を短く作ることでした。

自転車フレームのホイールベースは、重心となるBB(ボトムブラケット)部分を境にフロントセンターとリアセンターに分けられます。そのうち、リアセンターは駆動部品のクリアランス確保のため、シビアな設計が要求されます。現在の変速(脱線)システムでは、リアセンターが短ければチェーンが斜めになりすぎて変速性能が保証できません。変速機メーカーが動作保証するのは、リアセンター420mmくらいが最短です。また、26インチという比較的大きなホイール径に太いタイアを組み合わせるMTBでは、タイア、クランク、前スプロケットのいずれとも干渉しないようにフレームを設計することは、特にリアセンター420mm以下の領域では簡単ではありません。一方でフロントセンターは、前輪と爪先の干渉という問題こそあれ、設計の自由度ははるかに大きくなります。

そこで多くのフレーム・完成車メーカーは、リアセンターの設計変更は避けてフロントセンターのみで調整してきたのです。これが、アウディ・クアトロの二の轍を踏む行為だとも気付かずに。

次回へ続く)

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