「1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター」

読書の秋・・・はそろそろ店じまいですが、風邪で自転車に乗れないときなんかには本が楽しいです。気まぐれシェフのちょっぴり書評、ポロリもあるかも。お題は、「1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター(五十嵐 貴久)」です。実は著者による「青春3部作」の3部目だということですが、一応それぞれが別の話らしいので、前作を知らないことは気にせず読みました。

この本、最高です。

タイトルからして、クラシックロックファンなら思わず手にとってしまうことでしょう。スモーク・オン・ザ・ウォーターといえば、イギリスのロックバンドである Deep Purple の代表曲のひとつですから。そしてストーリーは、平凡な主婦がふとしたきっかけからバンドを組み、この曲を練習して、人前でライブをカマす、簡単に言えばそれだけです。それだけに、タイトル負けしているんじゃないか、超有名曲にあやかって私のような一見さんを捕まえる商法なんじゃないだろうか、との疑念を抱いて読み始めたのですが、それは大きな間違いでした。

誤解されやすそうですが、音楽に詳しいとか、ロックが好きだとか、そうした下地がなくてもこの作品は楽しめるはずです。軽快な文章で綴られたエンタテインメントであり、挫折と再生、友情と希望を描いた普遍的なヒューマンドラマだからです。

その一方で素晴らしいのが、背景となる1995年の日本の暗い影を帯びた世相と、主人公とその周囲の人が直面する葛藤と、そしてこの曲の歌詞世界とが、完璧な必然性を持ってストーリーを織り成しているということです。それこそまさに、バンドのメンバーがそれぞれのパートを演奏して、みんなでひとつの曲を紡ぎ出すように。

私も今ちょびっとバンド活動をしていますが、この Smoke On The Water という曲は特に好きではありませんでした。正直、ただ有名なだけだと思っていたし、歌詞に入り込めなかったんです。でも、この本のおかげでこの曲を、そしてロックを、もっと楽しめそうです。ごちそうさまでした。

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