Christmas Carol

まったく、なんて一日だ。俺は床にへたり込んで、そうつぶやいたんだ。

そう、俺の名は…いや、そんなことはどうでもいいか。昔のロックンローラーが歌ってたっけ。「名前なんてどうでも良いじゃない、そんなのみんな同じだわ」なんて十七かそこらの娘に言われる歌だった。

名前なんてみんな同じ?俺には分からない。でも、同じでも違っていても、別にかまわない。俺を見た人は名前を見るわけじゃないんだから。俺の顔を見たって、そこに名前が書いてあるわけじゃない。

そう、問題は顔だ。通りすがりに人の顔を指さして笑うガキなんて、絶滅危惧種だと思うかい?そんなあんただって、もし俺を見かけたら同じようにするんだろう。分かってる。俺には、それが日常だったんだ。職場でも状況は同じ、いや、もっとひどかった。同期で飲み会があれば、俺がそれを知るのは決まって翌日になってからだ。仕事中に給湯室から笑い声が聞こえたことだって一度や二度じゃない。もちろん、嘲笑の声だ。

会社の規模は大きいが、驚くほど少ない人間で仕事を回しているので大変だ。製造部門で研修を受けた時もハードだったが、今の配送部門はまるっきり戦場と言っていい。合言葉は、納期厳守に即日配達。まるで一回でも納期を守れなかったら会社の命運が尽きるかのようなプレッシャーをかけられ、しかも部内では昨日今日になって仕事を覚えたような連中までもが俺を平気で見下してくる。奴らのいい加減な仕事を俺がカバーしたことなんて、数限りないのにだ。これまで、正直に言えば、辞表を書いてカバンに忍ばせていたことだって一度や二度ではない。

それが突然、社長に呼び出された。昨日のことだ。もちろん初めてのことで、自分でも笑っちゃうくらい緊張している俺に社長は言ってくれた。「今度のプロジェクトがね、かなりきわどい状況なんだ。そして、毎度のことながらこれには社運がかかっている。物流に関しては君が一番明るいと聞いてね、ぜひ力を貸してほしい」俺は、平然を装って了承した。本当は、膝が震えていた。そして、涙が出そうだった。
結局その夜は、そのまま残って夜勤シフトをこなすことになった。同僚のためじゃないし、出世したいわけでもない。多分、会社や社長の役に立ちたいというわけでさえなかった。ただ、俺の脳裏に浮かんでいたのはクライアントたちの顔だった。しかも俺はどうやら、漠然とみんなを喜ばせたいと思っているわけでもなかった。あふれるような笑みをたたえるハナ、驚きに目を丸くするカルロス、窓から身を乗り出して俺たちの轍を降り積もる朝方の雪の中に見つけようとするニッキー…一人ひとりの顔を思い浮かべながら、俺は青い闇の中をぶっ飛ばしていった。

明るくなった東の空が俺の胸を射抜いたとき、空気が急に透明度を増したような気がして、俺は立ち止まった。さっきまで同僚に囲まれてしつこく打ち上げに誘われていたのが、はるか昔のことのようだった。

まったく、なんて一日だ。俺は自分にできることをしただけだし、それが自分にしかできなかったかどうかなんてわからない。だけど、とにかくそれができた。それを喜んでくれる人がいる。こんな単純なことが、こんなに誇らしいとは。

俺はルドルフ。どこにでもある名前だが、この名前の俺は一人しかいない。あんたと同じだ。そして今日、嬉しいことがあった。あんたもそうだと、いいな。

メリークリスマス。

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