ペペの悲劇

コンピュータで「ペペロンチーノ」が一括変換できなくてちょっとだけ驚きました。当たり前といえば当たり前なんでしょうけれど。

日本でペペロンチーノと言えば、イタリアで “Spaghetti aglio olio e peperoncino” と言われるパスタ料理で、ゆでたパスタにニンニクと唐辛子の味を移したオリーブオイルを絡めるというシンプルな一品です。麺の太さによってはメニュー名の一部が Spaghetti ではなく Spaghettini になったり、多少のバリエーションがあるようですが、日本ではどれもスパゲティと呼ぶのが一般的です。まあ、日本の発泡酒も第3のビールも大雑把に英訳すれば Beer となるわけで、人は異文化圏の内部にある些細な違いはあまり気にならないものなのですね。心理学で言うイングループとアウトグループの問題で、若者にはオジサンが皆同じに見えて、オジサンには若者が皆同じに見える、なんていうのもその一種ですね…と、話がだいぶ逸れました。

さてこのペペロンチーノですが、ゆでたパスタに絡めるだけのお手軽なソースが最近ではよくスーパーで売られていて、これがまた結構おいしいんですよね。そして先日、同じようなものが100円ショップで売られていたので、買ってみました。スーパーでは2食入りで200円くらいですから、半額です。

ところが、これが実にまずい。しかも混ぜにくい。これだけシンプルな料理をどうしたらここまでまずくできるのか理解できません。なぜ半端な業者ほどパスタでもスープカリーでも甘めの醤油味っぽくしておけば日本のマーケットでは安全パイだと考えたがるのか分かりません。もちろん、露骨にやるとバレバレになっちゃうので、あえて色々な化学調味料で複雑な味にしておくのもセットです。

思えば、パッケージの商品タイトルの酷さに気づいた時点で、1歩引いて冷静に考えるべきでした。本当に酷かったんです。変にひねった日本語に、グダグダとカタカナやアルファベットが付け加えられていて。

食品であれば、まともなものを作るにはきっちり製造原価がかかります。スーパーの特売であろうと100円ショップであろうと激安スーパーであろうと、安いものには必ず理由があります。それが品質に関わりのない理由(大量仕入れによるコストダウンなど)の場合もありますが、大抵は品質に関わります。逆に野菜や魚の場合は季節性があるので、安い時期の方が味も良いということもありますが、加工食品ではあまりありません。こんな当たり前のことに気づいていなかった訳でもないのですが、ちょっと価格と品質のバランスの限界を見極めてみようと、愉快な冒険をしてしまいました。

このソースは国産らしいのですが、製造メーカーを調べてみると、創業は古くてなんと19世紀。創業者には、乗っている船で火事が起きたときに自分の救命具を妻子のある友人に譲って、自分は海中で錨綱につかまって生き延びたという逸話があるそうです。そんな老舗が、バブル期の失敗から経営がうまくいかなくなり、挙句の果てには資金欲しさに詐欺を起こして経営陣に有罪判決が出されています。もちろん会社は倒産し、かつてのライバルである業界大手に吸収されて、現在では旧来の看板商品の他は廉価製品用のブランドとしてその名を残しているようです。

技術やアイディアや個性があっても、倒産したり歴史の波間に埋もれてしまった会社やブランドは数限りなくあります。そうなれば必ず惜しむ人があるでしょうし、そうならないためにこのように名前を残そうとするのもよく聞く話です。しかし、その舵取りをするのがそのブランドに理解も愛着もない人で、お客さんの方も向かずに商売をしているようだと、残るものはただの遺跡、廃屋です。その廃屋に暮らしている、うら若きペペは、今日も下手糞な歌を歌い続けているのでしょう。誰のためでもなく。

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