溶接機に悩む

溶接作業環境なしでは生きられなくなってしまった弱い私の心は今、溶接機を買い足そうか悩みまくっています。具体的には、エンジン溶接機を買ってしまおうかなという、DIYレベルで言えば6合目から7合目くらいの検討事項です。

ちなみに、以下溶接について語りますが、私はあくまでも素人ですし、上手くもありません。ましてやうちの自転車製品を自分で溶接したりもしていません。リビドーバイクカンパニーの自分用初期プロトタイプくらいまでなら自分でやるのもアリですが、そういうDIY程度のお話が今回の対象範囲です。

溶接というのは金属などの素材を溶かしてくっつける技術で、かなりの幅があります。代表的なのは電気アークでバチバチやるものです。他には、ガスで炙って溶かしたりとか、摩擦圧接とか、レーザーを使ったり高周波でチンしたり、素材や目的によって様々です。そして、それぞれの手法について専用の道具が存在するわけです。

エンジン溶接機とは一般に、電気アーク溶接のうち被覆アーク溶接(建築現場でよくバチバチしてるアレ)という手法に用いる道具の一種です。ちなみに自転車のフレームでよく使われるTIG溶接や、自動車業界ではDIYからメーカーの機械化ラインに至るまで登場機会の多い半自動溶接なども電気アーク溶接ですので、被覆アーク溶接を「アーク溶接」と略すのはやめましょう。略すなら「被覆アーク」か「手棒」の方が良いです。同様になぜかエンジン溶接機のみを表す言葉のつもりで「ウェルダー」と言う人も在るようですが、「『トラック』と言えばダンプトラックを指すに決まってるだろ」てな主張と同レベルで無茶なのでやめましょう。

で、本題の溶接機選びなのですが、鉄もアルミもチタンもやりたいならTIGです。アルゴンガスの用意とか、敷居はやや高いですが。鉄やステンレスのやや薄い物をなるべくキレイに簡単に、というなら半自動です。いわゆるノンガス半自動なら、道具も技術面でも最も敷居が低いと言えるでしょう。鉄系だけでいいんだけど、たまには板厚6mmとか10mmとか厚物もやりたい、練習の苦労は厭わない、好きな言葉は「ロバスト性」、というなら手棒になるわけですが、手棒の溶接機選びはかなりトリッキーなのです。

パッと見、手棒の溶接機ってめちゃめちゃ手頃です。100V電源用の機械だと下は1万円以下のものまで色々とあります。しかし、5分もネット検索すれば大体つかめることを改めて強調させてもらいますが、100Vの手棒溶接機はゴミです。ごく簡単に理由を説明するなら、100Vコンセントからは、規格上、溶接に必要なだけの電力を取り出せないからです。「USB電源で使えるお手軽ミニ電子レンジ」みたいなものが無理なのと一緒です。

100V手棒機の立ち位置を自転車で例えれば、MTBルック車です。どちらもホームセンターでいくらでも売っているけれど、プロでもアマチュアでも本気の人は検討する価値のない選択肢です。いくら工夫しようと腕を磨こうと魔改造しようと、どうにもなりません。さらに100V機は、MTBルック車よりたちが悪いことに、悪い道具でがんばった経験が後の肥やしになる率も低いと私は思っています。なぜなら、きちんと溶け込まさった溶接という感覚を知ることができないからです。

「溶け込み」という溶接用語は、英語に言い換えて「penetration」と言うと意外に分かりやすいのですが、どれだけ奥までズガーンと溶かさったかということです。溶接目の盛り上がりはあって当然なのですが、その下の部材間の境界部分が溶けていることが重要なのです。ある程度の溶け込みが達成できないなら、溶接構造にする意味がありません。ボルト・ナットやリベット接合の方がマシです。機材が悪くて溶け込まないから薄物オンリーで…って言うんなら、半自動とかTIGにすれば?って話です。限界の低い機材は、大抵その限界内でも性能が低いもんです。

一方、100V手棒機より安いくらいの道具コストで鬼溶け込みを得る手段として、「カーバッテリー3個直結からの直流手棒溶接」なんてのもあります。実際かなり使えます。ただしこんな悪魔との契約みたいな美味しい話ですから裏はありまして、まず色々と危険です。機材も長持ちはしません。

カーバッテリー溶接の問題として、作業中のバッテリー消耗が激しく、常に同じ条件での作業が不可能なので、練習効率が悪いこともあります。これはスポーツでも人格形成でもペットのしつけでも何でも同じことですが、何かをまともにやるには一定の環境が必要です。その中でみな、自分のアクションに対してどういうリアクションが返ってくるのかという情報を元に、基礎を習得し、動作や行動を最適化させていくわけです。スカッシュボールを壁に打って跳ね返る方向が毎回ランダムだったら練習にならないし、「待て」とか「ヨシ」みたいな号令やその意味するところ、守ったときの報奨や違反したときの懲罰が毎回違ったら混乱するし、ストレスにもなるわけです。

ではDIY用途で溶け込みバッチリ、ストレスフリーな手棒機材をどう選ぶか、というと、200V電源機なら割と何とかなるようです。そして、200V環境が手に入らない場合のラストリゾートとして、エンジン溶接機の出番があります。本当はTIGだって何だって欲しい私ですが、たまに溶接したくなる厚物対策として、またいつか起きるかもしれない停電対策として、エンジン溶接機(大抵は発電機としても機能します)いっちゃうか、というのが現在の流れです。

というか、つい今しがた、この文章を書いている最中に一気にポチッと買ってしまいました。ちょっと出物があったもので。テンション上がっているのが半分、本体重量80kgにビビっているのが半分といったところです。まずは、荷降ろしのために慌てて身体を鍛えないといけません。

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