エスカレータの羊たちへ

先週は中国・上海で国際貿易展示会「チャイナ・サイクル」がありまして、行ってきました。中国本土に行くのは2回目なのですが、前回は香港滞在からの日帰り深圳往復だけだったので、まあ実質初体験です。

上海に1週間居ただけなので、中国のことが丸ごと分かった!なんて言えるガラじゃないですが、それなりに見聞を広めて帰ってきました。交通ルールもへったくれもないとか、安いだけの飯は底なしにマズイとか、安いだけのチャリは底なしにゴミクオリティだとか、巷でよく聞くような中国のダークサイドはまあ概ねその通りなのだろうと思います。が、少なくともひとつ、私が中国にマジのガチでベタ惚れした点があります。エスカレータの乗り方です。

私は常々、夜空の星に願ってきました。エスカレータでは急ぐ人を邪魔しないよう片側に寄って立つのが至上の掟だと信じて疑わない手合いが、一日も早く死に絶えますようにと。

私だってエスカレータ上で歩くこともあれば走ったことさえありますが、あれは空いている場合のオプションに過ぎないし、そもそもエスカレータの製造会社からも、鉄道などの運営会社からも、そのような乗り方が正式に推奨されたケースは寡聞にして知りません。それを当然の権利だと捉えたり、そのために片側を空けるのを当然の義務だと考えたりするのは、「マナー」の名の下での思考停止です。空気を読みすぎて脳味噌まで空気になっちゃったね、って話です。

思い起こせば、私がこんなエスカレーターモンスターになってしまった最大の契機は、数年前に品川駅で突然訪れたのです。山手線を降りた私は、羽田空港に向かうためにプラットフォームからエスカレータを上がっていました。荷物も多少ありましたが、それ以上に足が痛いというか、足首折れていたので、スマートに片側に立ってなぞいられません。そこに下から歩いてきたスーツの男が詰まって、ブーたれてきたのがバトル開始のゴングです。袖触れ合うも他生の縁と申しますが、せめて話が通じないと良縁とはなりません。「急ぎたきゃ階段走れや」とアドバイスしても、豆鉄砲食らって逆ギレしている鳩のようなリアクションしか返って来ず、切なくなりました。

一般的に考えて、そのエスカレータを駆け上がらないと親の死に目に会えないレベルの確率が、荷物が大きいとか身体的な都合で右側あるいは左側にしか掴まれないとか杖をつくスペースが必要だなんて確率を大きく上回るとは思えません。本気で走るなら階段の方が大概早いですし。

中国、少なくとも上海メトロでは大体、エスカレータにみんなでワッと押し寄せてみんなでワッと乗るスタイルです。混んでいる時なら各段に2人ずつきっちり乗らさることもあります。私が極度に近寄り易いオーラを発しているせいかもしれませんが、横にうら若き女性がチョコリンと乗ってくるくらいは普通です。そりゃそうですよね、電車の中ではもっと人口密度が高い時もあるのですから、今更エスカレータ上でパーソナルスペースいっぱい下さいってのはただのモンスタークレイマーです。

で、ここから先が最も重要な部分なのですが、エスカレータって、ワッとひとかたまりに待ち列を作ってギッチリ乗るのが総合的な輸送能力は一番高くなるはずなんですよ。まあこれは私の観察と感覚に基づく話なので、あとは人間工学とか交通工学とかで喧々諤々して立証なり反証なりしてもらえれば良いのですが、この仮説には自信あります。全然何の証明にもならないエピソードですが、上海の十数分の一しか人口のいない札幌の地下鉄やJRの方が、エスカレータの待ち列が長くて捌けるのが遅かったりします。一部の人がほんの少し早く駆け上がるだけのために。それも、階段を走るだけの本気が無い程度の人のためですから。

ひとつ懸念があるとすれば、中国でも意識が高い人は現状をよく思っていない場合もあるらしいということです。ひょっとしたら、次に訪れた時には新しい「マナー」ができちゃっているかもしれません。そうじゃないんだよなー。下手の考え休むに似たり系のコンプライアンス志向で自縄自縛ってのは、中国にはきっと似合わないと思うのです。いや、むしろそんなの似合う国があるのかって話ですが、そっちに突き進んじゃって引き返せるのか不安になるケースは知っています。

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