最後の踊りは丘を駆け下りながら(2)

さて、ビンテージと言うには新しく現役と言うには古ぼけたダウンヒルバイクを魔改造するお話の続きです。メインディッシュは内装変速化。その理由をちょっと説明しましょう。

一般に、スポーツ自転車の変速装置はディレイラーを用いた外装変速が主流です。並列配置された複数のスプロケット間をチェーンが脱線移動して変速します。ロードレースの最高峰ツール・ド・フランスも、マウンテンバイクのワールドカップも、基本的にはこればっかりです。長年の改良により現在の駆動効率は95%程度と言われており、これはかなり優秀な数字です。一方、内装変速の場合はそれより数%効率が落ちるとされています。

しかしMTBは悪路を走るもの。低い位置に張り出したリアディレイラーが岩などにぶつかって走行不能になることもあります。実際に、私がダウンヒルのJシリーズを走っていた頃、富士見で毎回ぶつかる岩がありまして、ラン1回につきディレイラーハンガーをきっちり1個ずつ壊したレースがありました。おちおち試走もできませんし、曲がったディレイラーでチェーン飛び飛びになりながら下りてくるタイムロスを考えると、駆動効率の差がひっくり返ることもあります。

これを軽く数学的に考えてみましょう。ちなみに条件は全て適当です。

外装変速で何も問題なければ4分でフィニッシュできるダウンヒルコースがあったとします。内装変速では漕ぎの効率が落ちるとはいえ、ダウンヒルでの加速力の大半は重力によるものなので、まあかなり贅沢に見積もったとして漕ぎによるタイム差は1%。2.4秒遅くなります。そこそこ、勝敗や順位に大きな影響を与えられるタイム差ではあります。一方、毎回ディレイラーを岩にぶつけるのはやりすぎだとしても、最速ラインを攻めてたらそんなこと言ってられません。5回に1回ぶつけてみましょう。それでも機能に支障のない場合もあれば走行不能でフィニッシュラインにたどり着けないケースもあるでしょうが、まあ漕げなくなって平均20秒ロスするとしましょう。すると期待値としては理想シナリオの4秒落ちとなり、1.6秒差で内装変速に負けます。

実際にはもっと変数が多くあり、まず内装変速の方が現状システム全体として重いため不利です。しかし一方、外装変速では禁忌であるペダルの逆回しなど気軽にホイホイやっても内装変速ならトラブルにつながらないという自由度もありますので、その辺はざっくり相殺しましょう。ということで、内装変速の勝ちです。第一トラブルを気にして走っても楽しくないですし。

以上はレースを基準とした話なので、一発の速さがある外装変速を選ぶ根拠を否定することにはなりません。しかし現在の私のようにダウンヒルを楽しく遊びたいという場合にはパフォーマンスを期待値で判断することは重要ですし、何よりメカニカルトラブルで死んだ目をしながら6分目のフィニッシュラインを並足でくぐる屈辱とかほんと要らないです。

ついでに言うと、これはストリートでも外装変速から内装変速に移行して結局シングルスピードに落ち着いた私の過去の経験と大きく重なるトピックでもあります。ただ大きな違いは、スピード域の幅が広くまた結局は時計との争いであるダウンヒルという種目において、やはり変速はあった方が良いという前提条件のもとで最適解を追い求める作業であるという点です。設計要件が手元に揃い、その中で相克する設計上のジレンマを見極めてそのバランスを取る作業というのは、エンジニアにとっては最高のオカズです。

と、まあ一通りの理由付けも済んだところで、こんな偏執的なこだわりのために他の全てを犠牲にしてどんな魔改造を施したのか、また改めてお伝えしてみるとしましょう。というか、何となく3部構成と言ってみたものの、妙なこだわりが溢れ出しすぎてもっと長くなりそうです。気が向いたらお付き合い下さい。

  • 記事カテゴリー

  • 月別アーカイブ