最後の踊りは丘を駆け下りながら(4)

さて、ワンオフのアルミ削りっぱなしブラケット関係が大体なんとかなったところで、内装変速ハブをフレームに装着できるよう、ひと手間かけます。シマノの内装変速ハブ、それも最近のスポーツバイク対応モデルはもともとMTBにポン付けできるような規格で作られているのですが、近年ではMTBの車輪まわり規格が多様化しすぎて話がややこしくなっています。

今回装着するシマノ製Alfine 11速ハブはオーバーロックナット寸法つまり幅が135mmでシャフト径10mmという一般的なMTBの後輪ハブ規格(現物について正確に言えばシャフト径は3/8インチ = 9.525mm)なので、ちょっと昔のMTBならどんなものにも付く設計です。しかし最近のMTBはハブの幅が142とか148とか150とか157とか、ちょっとそういう設計をしたエンジニアを処刑して口減らしした方がいいんでないかと思うほど多様化しちゃってます。ただその中でも設計上の正当性が感じられるもののひとつに150mm幅のシャフト径12mmというものがあり、ダウンヒルバイクでは現在わりと主流になっています。私のNorco号の凄いところの一つに2000年時点で早くもこの規格を採用していたことがあるのですが、逆にそのため今回は135×9.525から150×12へのスペーサーを作らなくてはなりません。

幅については厚さ7.5mm内径9.525mmプラスアルファの生鉄ワッシャーを左右分2個手配して解決です。これについてもめっちゃコマいうんちくを垂れておきますと、手配したのが国内の業者なのでインチ規格の内径は指定できません。よっぽど特注対応で上乗せ料金を払う覚悟があれば別ですが、普通は0.5mm刻みでの指定とかになります。しかし通常品でも、穴側つまり内径公差の保証範囲はプラス0.1から0.3mm。精度はいつも間違いないところを突いてくるので中央値0.2mmを狙って来ると予想できます。ということは9.5mmでオーダーすれば仕上がりが9.7mm、最小でも9.6mm。一方の軸側は工業上の鉄則としてマイナス公差で来ますから、なんぼ太くても公称値から0.05mmは落ちるでしょう。まあ実測値は忘れたっていうか余裕で何とかなりそうだったのでいちいち覚えてないんですが、予想値としては9.475mm。余裕です。そして実際、完璧でした。インチ系とメートル系のギャップを逆手に取って、お値段以上の精度を手に入れました。

径については内径9.525mm外径12mmのカラーがあれば良いのですが、加えて内装変速の場合は構造上シャフトの回り止めも必要です。シャフトの断面は2面を平たく削った小判形になっており、それに回り止めワッシャーが噛み合って、変速機構の支えとしてフレーム側との相対位相を固定します。一般的にはこういう部品です。

この固定の向きによって変速ワイヤーの出る方向が拘束されるので、フレーム側の多彩なドロップアウト形状に対応すべく、角度(位相)違いで4種類くらいのバリエーションがあります。

これを外径12mmというか幅12mmのU字型にすれば良いので、いよいよ私の愛するRyobi製サンダーの出番です。荒取り用に切断ディスク、研削に27番と120番あたり、まあその他適当に替えつつ削ります。この回り止めパーツは磁石に付いたのでロウ付け可能な鉄系素材と判断し、最初に左右両部品をダミーシャフトに挿してロウ付けしてから同時研磨しました。ここで左右の位相が狂っては台無しなので。まあ自明ですがその前に、ワッシャーの塗装を剥離するのと端面を平らに削っておく工程もありました。ロウ付けは手棒アーク溶接なんかに比べるとコンタミネーション(表面汚染)の影響を受けやすく、脱脂など含めて割と神経質な下準備が必要です。

シャフトの入る穴と外形との同心度を要求される加工ですので、1面ずつ削って計測可能な状態を保ちつつ切削するのがコツです。もう少し具体的に説明するなら、このワッシャーの外径が20mmだとすると、元の半径10mmを6mm(フレーム側シャフト受け径12mmの半分)にしたいわけですから、1面削ってノギス計測16mmを目指します。次に反対側を削って12mmにすればその2面はOKです。続いてその2面と直角に3面目を削れば、それが「U」の字の下側となります。実際は外径実寸にもう少し端数があったので計算がちょっとだけ複雑でしたが、まあとにかく、手作業で高精度加工をしようと思うなら常に寸法検証可能な段取りが必要になるというのがキモです。

次に、丸くしていきます。

こういうシチュエーションで最初から何となく丸く削っちゃう人をよく見るんですが、愚策です。「丸太に埋まっている仏像を掘り出す」レベルの彫刻センスがあれば別ですが。そうではなく、段々と正多角形に加工していけば、仕上げ寸法にどんどん近づきながら丸くなります。フレームに対する軸の位置決め自体は最初の3面で完結しますので、ここはマイナス公差の作業、極端に言えば菱形にまで肉を落としても問題ありません。でも一応キレイに作りたいので、四角形状から正8角形、正16角形(まあ正確に言えばその半周分)を目指します。角を落として新しい辺を作り、その切削面が歪みなく長方形かつその幅が隣の辺と同じになるように削るわけです。正256角形まで進むとかなり丸くなるので、最後に紙やすりでサラッと丸く削れば、ここまでのプラス公差分の一皮がちょうど落ちてバッチリ仕上がります。

キレイにできちゃったんで、例の7.5mm厚ワッシャーとロウ付けしました。これもダミーシャフトに刺して両部品の同心度を確保しながら付けています。自画自賛だけど結構ウマイぞこれ。さっきの同時研磨と違いシャフトにくっついたらいけない(炙って剥がしたら振り出しに戻る)ので、シャフトに溶接のスパッタ付着防止スプレーを吹いておいてみたところ上手くいきました。

実のところロウ材がうまく回ってない箇所はありますが、この部分は別に応力かからないのでくっついてりゃOKってスタンスでいきます。このあと適当に塗装しました。適当界の王道、軽くプラサフ吹いてからのつや消し黒です。変に厚塗りして精度出なくなるより錆びる方がマシっちゃマシだし。あ、その前に一応、防錆のためと塗装が乗りやすいように自家製リン酸亜鉛皮膜処理液で表面をエッチングした記憶があります。狂ったように作業してたんでちゃんと覚えてないんですが、多分この写真がエッチング後。

まあとにかく、これでやっと内装11速ハブが装着できるので、その他の仕上げ作業をしていきます。またまた長くなったので、続きは次回に。

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