あおり運転の真因に関する考察

私たちの生活をマクロ的に見た時、人体における血管に例えられるほど重要なのが道路。その道路交通に関して、ここ1年少々よく話題に上るのが「あおり運転」の問題です。その原因について、ひとつめっちゃ新しい発見をした気がするので徒然なるままに書き記すとしましょう。長くて読んでられないよ、って方は最後の段落まで飛ばしましょう。

まず大前提として、あおり運転の原因の帰属としては、煽る側にも煽られる側にもありえます。もちろんこれはケース・バイ・ケースで、一般に煽る側が悪いのか煽られる側が悪いのかという極度に単純化された宗教論争を私はしたいわけではありません。

さらに言えば、完全に煽る側が悪いようなケースについては、対策は無理です。なぜなら、時々発生する頭のおかしい人をコントロールするのは社会運営において根本的に不可能だからです。もしもそれが可能なら警察も刑務所もいらないって話です。運悪くそういう輩に煽られてしまった場合の対処としては、そこここに情報ありますが、超まとめると「相手の土俵に乗らない」ことが肝要です。「世の中には本当に話の通じないキチガイもいるんだから『話せば分かる』なんてのはあんたの世界における金言であっても相手にはクソほどの価値もない戯言」という意識を持つことはグローバル時代のスタンダードです。というか、我々はそれを1932年から知っていたはずです。

ということで、原因を考察したり対策を論じる価値が大きいのは、煽られる側に問題があるケースということになります。これもゼロか百かということではなく、1%でも99%でも、そこに何らかの要因があるなら改善の余地があるよね、という話です。

で、これなんですけど、実際に問題ありすぎるんですよね。本質の伴わない安全寄り運転の皮を被った、受動的危険運転、自己陶酔型安全のつもり運転、そして結果として起こる煽り誘発型運転。

ラッシュアワーの鉄道駅構内で突然歩みを止めたりジグザグに歩いたり、早足と牛歩を繰り返したりすれば、後ろの人がぶつかってくることもあれば舌打ちをされることもあるでしょう。それを全部「煽られた!怖い!暴力的!」と糾弾することが前向きな提言だとは私には思えません。まして、車の運転というのは他者に対する潜在的加害性が大きいために免許制となっています。というのも、イザというときには、あなたや周りの大事な人たちや第三者を守る手立てとして、あなたの運転技術しか無いからです。自動運転の完全実用化までは、という但し書きは付くとしても、ここを抜きにしては議論が成り立ちません。

話しついでに最後の脱線ですが、最近は本当に下手なドライバーが多いです。ちなみに、運転が下手というと「女性は」とか「高齢者は」とか枠を決めて魔女狩りしたがる人もいるようですが、私の見る限りでは全部です。老若男女、全部。原因は多岐にわたります。交通社会運営におけるゆとり教育的汚点たるAT限定免許、生活の全てのシーンでテレビ放送や音楽を流して隙間を埋めようという足し算的文化志向、あなたを社会のグリッドに縛り付けるソーシャルメディアとその媒介点たる携帯端末、ヘッドライトを点灯しなくてもメーターはピカピカに可視化してくれる計器パネル。責任転嫁の対象は多岐にわたりますが、いずれにしても最終責任が誰にあるのかは知っておくべきです。

さて、ここでようやく本論に参ります。おせえよ。すみません。

煽り誘発型運転の典型例に、「遅い」ってのがあります。そりゃイライラしますよね。通勤電車は早ければ早いほど良いように、インフラストラクチャとして交通を考えた際、時短は絶対的正義です。ですが皆300km/hで運転すると曲がり角ごとにアイルトン・セナになってしまうので、制限速度が設けられています。高速道路でも一般道でも区間によって指定速度が違うことからわかるように、「そこそこヘタでもイケる」くらいの指定が普通です。

けど、この速度さえ出てない車も多いんですよ。だって自車の速度を分かっていないんだもん。

車のスピードメーターは、精度的にはゴミクズレベルです。知ってました?

計器というものには、程度の差はあれ、必ず誤差があります。温度計でも電圧計でも時計でも、高いものでも安いものでも、何でも。そして一般には実際の値から上下に何%以内のズレで収まるように、という形で品質保証をする場合が多いと言えます。しかし、自動車の速度計については、表示値よりもスピードがやたらと出てしまっていると危険です。そこで市販車においては、実速度に対しメーターが過少申告しちゃう側については誤差範囲を厳しく小さく定めるのが一般的です。ここまでは、日本だけでなくヨーロッパでもアメリカでも同じ傾向です。

この狙い所の定め方について、日本では平成19年(2007年)を境に、それ以前と以後の生産車に対して基準値が変わりました。その詳細はどうでもいいという方は以下の数字セクションを読み飛ばして下さい。

国土交通省の定める保安基準の変化は以下の通り。

  • 速度計表示(~H18):10 (V1 – 6) / 11 ≤ V2 ≤ (100 / 90) V1
  • 速度計表示(H19~):10 (V1 – 6) / 11 ≤ V2 ≤ (100 / 94) V1

*この場合において、V1は、自動車に備える速度計の指示速度(単位 km/h)V2は、速度計試験機を用いて計測した速度(単位 km/h)

車検でテストするメーター40キロ読み時点で言うと、実速は

  • 実速度@40km/h読み(~H18):30.91 ~ 44.44 km/h
  • 実速度@40km/h読み(H19~):30.91 ~ 42.55 km/h

となります。

しかしここには一度混乱があり、どうやら2003年時点でのリリースでは以下のようになっていました。このへんの国交省文書を掘り出して時系列に沿って読み解くのに大変手間がかかりました(愚痴)。

  • 速度計表示(H19~):10 (V1 – 6) / 11 ≤ V2 ≤ V1
  • 実速度@40km/h読み(H19~):30.91 ~ 40.00 km/h

(以上、一部改正される前の新基準値、つまりボツ案?)

一方で、道路運送車両の保安基準については、2007年リリースのこんな文書もあります。

(速度計)第五十四条 平成十八年十二月三十一日以前に製作された自動車については、保安基準第四十六条第一項並びに細目告示第七十条、第百四十八条及び第二百二十六条の規定にかかわらず、速度計は、次の基準に適合する構造とすることができる。一 速度計は、運転者が容易に走行時における速度を確認できるものであること。二 速度計の指度の誤差は、平坦な舗装路面で速度三十五キロメートル毎時以上(最高速度が三十五キロメートル毎時未満の自動車にあっては、その最高速度)において、正十五パーセント、負十パーセント以下であること。

これを数式にすると、こうなるでしょう。V1とV2どっちを基準にするかって点で逆じゃねぇか、面倒くせぇな。

  • 速度計表示(~H18):(90 / 100) V2 ≤ V1 ≤ (115 / 100) V2
    (V1は速度計の指示速度、V2は実速度)
  • 実速度@40km/h読み(~H18):34.78 ~ 44.44 km/h

(結局のところこれが、古い車に適用される、昔ながらの値)

正直もう何がなんだか分からないですが、誤差の範囲をどの辺に持ってくるのかという点に注目すると、この基準改正には3段階の変化があったことになります。

  1. 昔の車は、メーター読みよりスピード出るのは多少OK、読みより遅いのはもちろん余裕でOK
  2. これからは、メーター読みより実速度が出ちゃうのは一切許さん。けど、遅い方はもっとガバガバ精度でOKにしてあげる
  3. ごめん、さっきの嘘。少しだけならメーター読みより実速度の方が速くなってもいいよ。

結果として、誤差範囲の幅自体は広がったのが趣深いところです。21世紀のハイテク電子制御自動車に対して木炭バス程度のエンジニアリングしか求めない政府の神対応。

速度計の話題になると「基準改正があって、実速度より少しでも遅く表示されるスピードメーターは禁止になった」と解説してくれちゃう人が市井に多いのはこの第2ステップのせいでしょう。しかしまた、自動車メーカー側の社内基準に対してこれが大きな影響を与えたことも想像に難くありません。「計器の正確性を上げれば公的基準くらい通る」というところから、「正確じゃないところを正確に狙わないと基準に通らない」へのパラダイムシフトです。

別の見方をすると、車検現場での測定精度などを勘案して両側に公差を残すことになったものの、「うっかり速いのは許さん」という新方針自体は生きているとも言えます。実際にヨーロッパも同じ傾向のようで、少なくとも現在時点において、純正スピードメーターが比較的正確なのはアメリカ車だと言われているようです。

穿った見方をすれば、この新方針は自動車メーカーにとって悪い話ではなかったはずです。実速度が同じでもユーザーは「このクルマ昔乗ってたやつより速ぇ~最高!」ってなるし、また、車種によるでしょうが、仮に距離計と速度計が連動して同様のメーター誤差を食らっているとすれば、「このクルマ昔乗ってたやつより燃費めっちゃ良い~最高!」ともなります。こんな具合に馬鹿なユーザーを騙して合法的にパフォーマンス偽装も燃費偽装もできますし、8000kmしか走っていないユーザーが「やべー1万km越えちゃった!点検とオイル交換お願いします!」とか、8万km走ったオーナーが「もう10万kmだ!買い替えます!」とカモネギってくれるかもしれません。素敵じゃないですか。

まあ実際には、最近の車のコンピューター制御システム内では、これと別にかなり正確な速度計測値も存在するらしいですけどね。スピードメーター界における裏帳簿です。まあそこまでたどり着けなくても、スマホにGPS速度計アプリでも入れればかなり正確な速度計測が可能です。タダで。

「タイヤの摩耗で直径は変わるし、タイヤの銘柄やサイズ変更でも同様なのだから、基準に対して余裕を持ったサバ読みをしなければならない」とメーカーは言うでしょうが、これも眉唾ものです。なぜなら、タイヤが減ってもメーター読みに対して実速度は遅くなる方向にしか変化しないし、そもそもその変化量はせいぜい1~2%程度にしかならないし、また、純正以外のタイヤで極端に直径が大きくなるようなケースはユーザーの自己責任に過ぎないからです。

ではそろそろ、ここまでつらつらと書いてきた全てを一段落にまとめてみましょう。これ以上脱線して暴走機関車になる前に。

最近の車って実は、同じ心積もりで運転していても、昔の車よりスピード出てないんです。「制限速度キッチリ出してるのに煽られた!キーッ!」なんて話をちょいちょい聞きますが、そもそもそれ本当かな? 別に、何となく目の前を流れる風景の感じからしてこれくらいのスピードしか出せないよ~、とヨチヨチ運転をするのは悪いことではありません。しかし例えば、制限速度原理主義者が60km/h制限の道路を実速度53km/hでドヤ顔巡航するとき、その無邪気かつ滑稽なる無知を私は軽蔑します。運転者が何に対して責任を持つべきものであるかと言えば、それは現実の事象であり実際の速度であり、決して計器上の数値ではないのです。

(一部追記改訂:2019-04-21)

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