Tanatosフレーム、実はShimanoクランク装着可能でした

弊社ブランド Libido Bike Co. が誇る旗艦モデルが、究極のストリート用MTBフレームである Tanatos。これについて街頭インタビューをすると、以下のような声が聞かれます。

  1. 「そもそもストリート用ってどういうもの? 私はパンプトラックとダートジャンプとスロープスタイルとスケートパークしか乗らないから興味ない」
  2. 「トップチューブとダウンチューブがトリプルバテッド管だとか、フレーム全体を溶接後熱処理しているからクロモリ鋼本来の強度と靭性が発揮されると言うけど、それでもフレーム重量が2.5kgあるなんて、軽量機材原理主義の我々からすると迫害対象と考えざるを得ない」
  3. 「ああ、例のパーツ選定が面倒くさいフレームでしょ? 特にBBとクランク周り、BMX系の部品を前提に設計されているけど、俺マウンテンバイカーだからそういうの分かんないし」

ごもっとも。では解説しましょう。

  1. ストリートとは文字通り街中の階段を飛び降りたり壁を走ったりするような乗り方です。機材設計の要点や方向性としては、パンプやダートやスロープスタイルやパークとほぼ完全に一致します。ドンズバです。
  2. 設計ミスでした。類似用途のアルミフレーム並みの2kgくらいで仕上げておけば、世間一般のフレームをストリートで乗った場合と同じように、数か月から数年のスパンでみんなフレームを折ってくれて私たちは買い替え需要でウハウハできたはずです。しかしながら、実際に乗ってもらうと「動きが軽い」とのコメントは多くとも「重い」と言った人は皆無です。
  3. そんなあなたに今日のトップニュース。泣く子も黙るシマノ製クランクセットが装着できます。

そう、実はタナトスにも、業界標準を牽引する世界のShimano製MTBクランクが付けられるのです。ということは、同じ24mmスピンドル規格であればRaceFaceその他、工夫次第でもう好きにして下さいってことです。ではさっそく、インストール実証写真をどうぞ。

必要な部品とセットアップの要点は以下の通りです。

  1. BBには、6805系BBベアリング(要はシマノBBのベアリング部分だけに相当するもの)を用意
  2. クランク位置調整に、内径24mmのスペーサーが適宜必要
  3. クランクには、XTやSLXのグレードに用意されている「チェーンライン+3mm仕様(2×11スピード)」、いわゆるBoost対応モデルを使う
  4. フロントスプロケットは、インナー24Tや26Tをそのまま使う
  5. リアスプロケットは、11T~12Tあたりを目安に、お好みでどうぞ

細かいところを順番に見ていきましょう。

1番、BBベアリング。

BBベアリングについては、シマノBBから打ち抜いて使うという裏技も無くはないですが、それより、アフターマーケットで同じベアリングと内径スリーブのセットがナンボでも売られています。それを買ってくるのが良いでしょう。何が合うのか分からなければ、魔法の呪文「トレックのBB90用」と唱えましょう。

右側のものが、今回ゲットした内径24mmスリーブ入りベアリング。

樹脂スリーブのツバ部分がベアリングより大きい仕様だったので、チョキチョキと切ります。ベアリング外径マイナスアルファにさえなれば何でも良いです。軽くラビリンスシールを構成する設計でしょうが、これはオマケ。決定的なシール効果はベアリング本体側で完結しています。

なので、ここまで入念なトリミングは不要です。今回はせっかくのデモ組みなので気合い入れてみただけです。あとは普通に圧入して終わり。BMX系BBと違い、左右ベアリング間に金属スリーブ入れなくて良いので楽ですね。

2番、スペーサー。

内径24mmのスペーサーも左右それぞれ適宜必要になりますが、これまたShimano純正だろうと社外だろうとナンボでも売ってます。BB買ったら付いてくる場合もあります。合計10mm分くらい必要です。器用な方なら、内径24mmのパイプを切るなり、旋盤で削り出すなり、または15/16インチ(23.8125mm)のワッシャーだって多分入るでしょう。15/16″なんて半端に聞こえるかも知れませんが、BMXのスプロケット中心穴はほとんどこれだし、32スカイラインとか、スポーツカーのブレーキマスターシリンダー径としても多いサイズみたいですよ。まあ関係ないけど。

Boost対応クランク、非対応クランクと、色々試したのでメモ書きがぐちゃぐちゃですが、最終的に現車に入れたスペーサーは右7mm、左2.5mm。個体差によりコンマ単位では前後しますが、これくらいでスプロケットとフレームのクリアランスも確保でき、チェーンラインも合い、左右のQファクターも均等で、左クランクとスピンドルのかかり代もほぼ最大です。ここから数mm分、スペーサーを足したきゃ足せることになります。

26Tでこのクリアランス。フレームや部品は多少なりとも走行中に撓むのですから、この部分であれば、最低1mm程度の隙間が必要です。現状たしか1.2mmくらいです。

チェーンラインは実測で約49mm。リアハブ側の50mmとほぼ一致しています。すごく大雑把に解説しますと、この差が3mmとか5mmになると(チェーンやスプロケットにもよりますが)問題が発生することもあります。別に10mmとかズレたまま乗ってる人もいるし、一瞬で壊れるわけじゃないですが。ここで1mmというのは、自転車工学的に言って、ゼロの誤差範囲内です。

次に3番。メインディッシュのクランクセットです。

型番に「B」が付くのが今日のラッキーレター。世界のShimanoがLi”B”ido Bikeのために開発した、そんな意味のBです。

クランクはこのBoost仕様でないと、スプロケットとフレームが干渉するので不可です。仮にスペーサー増し増しでごまかしても、今度は左クランクのかかり代が足りなくなるのが見え見えです。ここは素直に、”B”の恩恵を享受しましょう。

はい、以上です。

誤解があると厭なのでクドめに書きましたが、プロショップのメカニックなら拍子抜けする程度の作業内容で、Shimanoクランクがすんなり装着できました。

~以下蛇足~

とりあえず付きさえすれば良い、という黒魔術的アプローチに必要なのはここまでです。何故そうなるのか、仕組みや応用まで知っておきたいという方向けに、役立つかもしれない詳細情報を以下に付記しておきます。

肝となるのが、BB規格とベアリングの互換性です。

まず前提となる知識として、工業用ベアリングは、メトリック(メートル法)系列とインペリアル(インチ)系列それぞれについて、内径や外径のサイズ設定を絞り込むことで規格化・標準化されています。自転車用など、アプリケーションに特化した規格モノについては内径だけ普通より大きくしたり小さくしたりという一捻りもよくあるのですが、それでもほとんどの場合、何らかの標準規格サイズを元にしたものです。そんな標準的外径設定の一つに37mmというものがあり、タナトスに採用している「スパニッシュ規格」BBベアリングも、シマノのホローテック2などに使われるベアリングも、内径は違えど外径は同じ37mmです。

今度はそれを受ける側、フレームのBB規格について。実は最近知ったのですが、タナトスのために私が設計したBBシェルは、Trek社の「BB90」規格とよく似ています。

そもそもBB90とは何ぞや、ということになると、ネジ切りBBシェル+アウトボードベアリングカップを一つのシェル形状にまとめたものと言えます。歴史のお勉強ですが、昔は68/73mm幅のネジ切りシェルにバラ玉ベアリングを内蔵するのが普通でした。しかしBB剛性を上げるために細いスクエアテーパーを捨て、ぶっとい中空BBスピンドルを使用するにあたり、居場所のなくなったベアリングをシマノは最終的にシェル外(アウトボード)に配置しました。ホローテック2時代の到来です。ベアリング配置に着目すれば、圧入カップかねじ込みカップかの違いはあれど、昔ながらのヘッドセットに近い構造です。で、今度は「じゃあヘッドセットの進化と同じようにその外付けベアリングの受け部分までをフレームの形状に含めてやれば良いじゃん」という自然な発想があったとして、それを図面に落とし込むと、大体ぴったりBB90の寸法になります。

そのBB90とタナトスの「Spanish+」を比べると、シェル幅90mm、圧入ベアリング径37mm、というところまで一緒で、圧入深さが違うだけです。BB90ではベアリング規格で言うと6805番を使うのでその幅は7mm、タナトスでは6904番を元にしたスパニッシュ規格ベアリングなので幅9mm。確かBB90ではツライチの圧入、対してうちはツライチではなく10mm奥まで入れ(ツラから1mm引っ込め)ます。ということは、うちのシェルに6805を圧入すると、BB90とのツラの差は片側3mmということになります。ここまで来ればお膳立てはもうバッチリってなもので、スペーサーで隙間を埋めるだけのウキウキ消化試合というわけです。

実は、この逆のケースとして、シマノのアウトボードBBカップに6904系ベアリングをブチ込んでBMXのクランクセットを使うという「シマニッシュBB」なんて裏技もあります。いずれの場合も成否を握るのはチェーンラインやQファクターを正常値に収めるための部品選定です。シマニッシュであればBBスピンドルの長さが重要な要件になるでしょうし、今回のケースではフロントスプロケットとフレームの干渉が最大の関門でした。Boost対応クランクの登場によりやっと突破口が開けたということです。色々な方から頂いた要望やヒントのおかげでそれに気付くことができ、今回の実証実験につながりました。ありがとうございました。

なお、このセットアップのために必要な部品、例えばBBベアリングなどは、弊社で在庫しているものではありません。ですが、どうしても手配が困難であるというような場合にはご相談に乗れるものもございます。ご遠慮なくお問い合わせ下さい。

それでは皆さん、良い圧入を!

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