最後の踊りは丘を駆け下りながら(6 – 終わり)

甘酸っぱくないし。しょっぱいし。

羊ちゃん、また来たよ。

ダウンヒルレース翌週、チャリ仲間にお誘い頂いてニセコにある某プライベートトレイル行ってきました。ずっと気になっていた場所にデビューできてウキウキなんですが、ハードテイルが楽しいコースなのにわざわざダウンヒルバイクも持っていったのには理由がありました。生前供養です。

フレーム折れました。レース数日後に各部チェックしていると、チェーンステイにビシッと一筋のクラックが。寿命です。このフレームが終われば、組んだばかりの内装変速ハブで組んだ後輪もいきなり引退だし、専用設計のチェーンデバイスも丸ごとゴミです。イチから構想を練り、ローテクな工具を駆使してひと月ちょっと、めちゃめちゃ手間暇かけて作り、実際にレースしても壊れたりしないスグレモノになったというのに。

なーんてチャリ仲間に愚痴っていたら、「むしろ良かったべや」と言われました。もしもっと早く作ってバリバリ乗ってたら大会直前に折れてトホホに暮れる羽目になっていただろうと。確かに。

なので気持ちを切り替えて、このバイクと最後の思い出づくりをすることに決めたのでした。そんなタイミングでのニセコ行きです。9月最後の週末でした。

天気も最高。景色も最高。また、等高線マニアの方には分かって頂けると思いますが、蝦夷富士とも呼ばれる羊蹄山、本家富士山に勝る美麗な佇まいです。元々は「後方羊蹄山」と書いて「しりべしやま」と読むという、キラキラネーム界にそびえ立つ秀峰です。

そんな環境で愉快な仲間たちとセッション。パンプトラックや、スロープスタイルっぽいジャンプとドロップオフのある下りコースがあり、期待通りめちゃめちゃ楽しい場所です。社用車のタナトスでだいぶ乗れるようになったところで、おもむろにダウンヒルバイクを引っ張り出します。

そしていよいよ、最後のジャンプへ。


(Photo: Takashi Madokoro)

この風景、刺激し合える友達、そしてヒリっとくるサイズの新造ジャンプセクション。最高すぎます。例によって私は乗る以外なんも考えてなかったんですが、マド氏に写真頂きました。自分もバリバリ乗りながらこんな写真まで撮っていたとは恐るべし。ありがとうございます。

こうして、18年を超える長い付き合いとなったこのバイクは現役最後のひと仕事を終え、眠りについたのです。今まで本当にありがとう。

そして翌日から、私は理想のダウンヒルバイクを求めて図面を描き始めるのでした。

最後の踊りは丘を駆け下りながら(5 – 下らない話はここまで)

超プライベートなチャリ改造話もこの辺にしておきましょう。もうさっさと仕上げて下ろうぜ!

とは言っても、このブログで引っ張っている期間以上に改造には時間がかかりました。夏休みの工作プロジェクト拡大版といった感じです。まあ、まずは細かい仕上げをします。

後輪のハブ幅をいじった都合上ディスクブレーキの位置もズレるので、ハブ側で3.5mmずらしたほか、キャリパー固定ブラケット(ブレーキキャリパーとフレームの間にある、黒くてまともに写っていない部品)に厚みの大きい前輪用を使うという荒業に出ました。MTBのインターナショナルディスク台座規格はもともと前後で20mm差の異径ディスク装着を前提としているので、前後両方に200mmとか203mmのディスクローターを付けるダウンヒルバイクでは普通こういう流用はしません。ただ、今回は前輪の大径化で相対的にブレーキの効きが弱くなったので、それを忘れるための魔法の方策として後輪もブレーキを弱くします。180mmローターがたまたま手持ちであったので活用します。

右側。シマノのAlfine 11速ハブは通常16丁のコグが使用可能な最小サイズとされています。しかしチェーン長やギア比の都合もあり、無理くり14Tをブチ込んでいます。見る人が見れば、オフセットコグを使った上でカセットジョイントのプラスチック部品を鬼のように削っているのが分かると思います。外装変速用のナローチェーンを使えばもう少し楽なのですが、ヘニャヘニャのチェーンは嫌いです。

ちなみに銀色に輝くフレームの直近にあるのが前回大騒ぎしたスペーサー。頑張った割に一切目立たないパーツです。また、幅広フレームにブチ込むには純正ナットが大き過ぎてあずましくないので、BMX用と思われる適当なナットに替えました。

この収まりの良さ。素敵。ディレイラーハンガーも削り落としました。耐障害性にはこだわります。

さらに、フロントフォークも動きが渋くなっていて厭だったのでオーバーホールします。古くからやっている人には懐かしい、マルゾッキのモンスターTです。島根・三瓶山でのエキスパート優勝からエリート一発昇格も、その後のエリート戦績も、全てこのフォークと共にありました。恥ずかしながら、まともなオーバーホールは初めてかも。

油が垂れるからといってゴミ箱の上でやるなよって感じですが、もしも私がコイツならそれなりに幸せな状況です。ここまで手をかけてもらうの初めてですし。そもそも今の時代に勝負機材として使ってもらう機会ないですし。

こういうバネの端面って結構いい加減な仕上げなので、磨きました。実際、これで金属ダストによるフォークオイル劣化のペースもかなり変わるでしょう。

元々が強度も剛性も信頼性もアホみたいに高いフォークなので、18年目にして初めてのフルオーバーホール+チューニングで見違えました。ていうかDH現役時代になんでこういう真面目なメカチューンしなかったんだろう。ストロークは175mmと現在ではダウンヒルフォークとしてかなり短い方ですが、そういう問題ではなく私これが好きなんです。これ以外は正直どうでも良いんです。

というわけで、改めてバイク全体の変遷を。

これが、

こうなりました。

これでいよいよ下れます。ダウンヒルシリーズのニセコひらふ大会、行ってきます。

羊蹄山に向かって駆け下るロケーションで知られる、ニセコひらふのダウンヒルコース。夏のゴンドラ営業は実は冬のエース第2クワッドリフトの架線を使用しており、降車してから冬で言う初心者迂回路を下ると、キング第2クワッド終点を過ぎたところにスタートゲートがあります。そこからしばらくは緩斜面で草地と軽い岩場の混ざる序盤の中速エリア、5壁上尾根ターン以降は斜度がきつくスピードの乗るガレガレの中盤セクション、そして常設コースから分岐して切り開かれた終盤セクションは中斜面で草地のオフキャンバー(ちょっと昔懐かしい感じ)、という構成です。全体としては標高差が大きく斜度もある高速コースと言えるでしょう。

行ってきました。散ってきました。

以下、憂さ晴らしに適当な毒吐きますので気になる方はお気になさらずに。

私、危ない橋を渡れずに中盤で大ゴケしました。ガレ場の急斜面を下りながら落差の大きいバーム付き右コーナーを抜け、数m後にコースを横切る溝にかかった木製の橋を渡るというセクションがあるのですが、その橋の位置というかバームの抜け方向がヘンなんです。攻めると必ず橋より下に抜けるんです。橋は幅1m弱で長さ2mくらい(もっと細長いかも)というよくある感じなのですが、手前のバームが造成から数年で肉やせしたせいなのかなんなのか、どうやっても出口で橋に合いません。

もちろん自然なコースなら合わないものを合わせるのが技であり醍醐味でもあるでしょうが、バームのような人工フィーチャーについては私はそうは思いません。高速セクションなら尚更です。より速く、スムーズに、楽しく、気持ちよく、ということを実現できない設計レベルならそもそもシャベル入れんなよ、って話です。努力と献身は尊敬するけれど、1日6,000円取るコースとしてはややお粗末ではないかな、という話でもあります。だって危ねーし。溝に突っ込んで前転しながら橋の角っこをタイヤのサイドウォールとフレームでガリガリとグラインドした痕がけっこう異常なんですが、とりあえず体には異常なくて良かったです。

というわけで、私にとっては悔いの残るレースでしたが、やっぱりそこできちんと結果を出したトップライダーたちは凄かったです。そしてダウンヒルシリーズを北海道に招致し、2年目にして地元無敗伝説を作り始めたオリエ選手、今回もおめでとうございます。

あと、今回初めて日帰り圏であるニセコにMTBレースのために宿泊して週末を満喫してみました。ローカル友達や今回知り合えた遠征組を含めて同宿のライダーが多く、最高のサタデーナイトフィーバーでした。大会本番前夜だってのに卓球でけっこう体力消耗しちゃいましたが、そう言えば昔の本州遠征でもフェリーで確かチームメイト伊藤雅人との卓球対戦に燃えすぎて足を痛めたことがあったのを思い出します。

レースを終えても名残惜しく、ローカル勢10余人ばかり、なぜかスタンディング車座でライディングがどうだ溶接がああだと馬鹿話に花を咲かせていると、とっぷり日が暮れてきました。勝者にも敗者にも平等に、日は沈み月が昇ります。

なんだか神秘的な、羊蹄山頂からボワッと出ずる月。夏の終わりを甘酸っぱく染め抜いてくれる、はずでした。

最後の踊りは丘を駆け下りながら(4)

さて、ワンオフのアルミ削りっぱなしブラケット関係が大体なんとかなったところで、内装変速ハブをフレームに装着できるよう、ひと手間かけます。シマノの内装変速ハブ、それも最近のスポーツバイク対応モデルはもともとMTBにポン付けできるような規格で作られているのですが、近年ではMTBの車輪まわり規格が多様化しすぎて話がややこしくなっています。

今回装着するシマノ製Alfine 11速ハブはオーバーロックナット寸法つまり幅が135mmでシャフト径10mmという一般的なMTBの後輪ハブ規格(現物について正確に言えばシャフト径は3/8インチ = 9.525mm)なので、ちょっと昔のMTBならどんなものにも付く設計です。しかし最近のMTBはハブの幅が142とか148とか150とか157とか、ちょっとそういう設計をしたエンジニアを処刑して口減らしした方がいいんでないかと思うほど多様化しちゃってます。ただその中でも設計上の正当性が感じられるもののひとつに150mm幅のシャフト径12mmというものがあり、ダウンヒルバイクでは現在わりと主流になっています。私のNorco号の凄いところの一つに2000年時点で早くもこの規格を採用していたことがあるのですが、逆にそのため今回は135×9.525から150×12へのスペーサーを作らなくてはなりません。

幅については厚さ7.5mm内径9.525mmプラスアルファの生鉄ワッシャーを左右分2個手配して解決です。これについてもめっちゃコマいうんちくを垂れておきますと、手配したのが国内の業者なのでインチ規格の内径は指定できません。よっぽど特注対応で上乗せ料金を払う覚悟があれば別ですが、普通は0.5mm刻みでの指定とかになります。しかし通常品でも、穴側つまり内径公差の保証範囲はプラス0.1から0.3mm。精度はいつも間違いないところを突いてくるので中央値0.2mmを狙って来ると予想できます。ということは9.5mmでオーダーすれば仕上がりが9.7mm、最小でも9.6mm。一方の軸側は工業上の鉄則としてマイナス公差で来ますから、なんぼ太くても公称値から0.05mmは落ちるでしょう。まあ実測値は忘れたっていうか余裕で何とかなりそうだったのでいちいち覚えてないんですが、予想値としては9.475mm。余裕です。そして実際、完璧でした。インチ系とメートル系のギャップを逆手に取って、お値段以上の精度を手に入れました。

径については内径9.525mm外径12mmのカラーがあれば良いのですが、加えて内装変速の場合は構造上シャフトの回り止めも必要です。シャフトの断面は2面を平たく削った小判形になっており、それに回り止めワッシャーが噛み合って、変速機構の支えとしてフレーム側との相対位相を固定します。一般的にはこういう部品です。

この固定の向きによって変速ワイヤーの出る方向が拘束されるので、フレーム側の多彩なドロップアウト形状に対応すべく、角度(位相)違いで4種類くらいのバリエーションがあります。

これを外径12mmというか幅12mmのU字型にすれば良いので、いよいよ私の愛するRyobi製サンダーの出番です。荒取り用に切断ディスク、研削に27番と120番あたり、まあその他適当に替えつつ削ります。この回り止めパーツは磁石に付いたのでロウ付け可能な鉄系素材と判断し、最初に左右両部品をダミーシャフトに挿してロウ付けしてから同時研磨しました。ここで左右の位相が狂っては台無しなので。まあ自明ですがその前に、ワッシャーの塗装を剥離するのと端面を平らに削っておく工程もありました。ロウ付けは手棒アーク溶接なんかに比べるとコンタミネーション(表面汚染)の影響を受けやすく、脱脂など含めて割と神経質な下準備が必要です。

シャフトの入る穴と外形との同心度を要求される加工ですので、1面ずつ削って計測可能な状態を保ちつつ切削するのがコツです。もう少し具体的に説明するなら、このワッシャーの外径が20mmだとすると、元の半径10mmを6mm(フレーム側シャフト受け径12mmの半分)にしたいわけですから、1面削ってノギス計測16mmを目指します。次に反対側を削って12mmにすればその2面はOKです。続いてその2面と直角に3面目を削れば、それが「U」の字の下側となります。実際は外径実寸にもう少し端数があったので計算がちょっとだけ複雑でしたが、まあとにかく、手作業で高精度加工をしようと思うなら常に寸法検証可能な段取りが必要になるというのがキモです。

次に、丸くしていきます。

こういうシチュエーションで最初から何となく丸く削っちゃう人をよく見るんですが、愚策です。「丸太に埋まっている仏像を掘り出す」レベルの彫刻センスがあれば別ですが。そうではなく、段々と正多角形に加工していけば、仕上げ寸法にどんどん近づきながら丸くなります。フレームに対する軸の位置決め自体は最初の3面で完結しますので、ここはマイナス公差の作業、極端に言えば菱形にまで肉を落としても問題ありません。でも一応キレイに作りたいので、四角形状から正8角形、正16角形(まあ正確に言えばその半周分)を目指します。角を落として新しい辺を作り、その切削面が歪みなく長方形かつその幅が隣の辺と同じになるように削るわけです。正256角形まで進むとかなり丸くなるので、最後に紙やすりでサラッと丸く削れば、ここまでのプラス公差分の一皮がちょうど落ちてバッチリ仕上がります。

キレイにできちゃったんで、例の7.5mm厚ワッシャーとロウ付けしました。これもダミーシャフトに刺して両部品の同心度を確保しながら付けています。自画自賛だけど結構ウマイぞこれ。さっきの同時研磨と違いシャフトにくっついたらいけない(炙って剥がしたら振り出しに戻る)ので、シャフトに溶接のスパッタ付着防止スプレーを吹いておいてみたところ上手くいきました。

実のところロウ材がうまく回ってない箇所はありますが、この部分は別に応力かからないのでくっついてりゃOKってスタンスでいきます。このあと適当に塗装しました。適当界の王道、軽くプラサフ吹いてからのつや消し黒です。変に厚塗りして精度出なくなるより錆びる方がマシっちゃマシだし。あ、その前に一応、防錆のためと塗装が乗りやすいように自家製リン酸亜鉛皮膜処理液で表面をエッチングした記憶があります。狂ったように作業してたんでちゃんと覚えてないんですが、多分この写真がエッチング後。

まあとにかく、これでやっと内装11速ハブが装着できるので、その他の仕上げ作業をしていきます。またまた長くなったので、続きは次回に。

最後の踊りは丘を駆け下りながら(3)

ダウンヒルバイク改造話、まだまだのんびりと引っ張ります。

トラブルが無ければ現状最速のディレイラーによる外装変速だけど、少なくともダウンヒル競技について言えば、これってF1マシンでラリーを走ろうとするくらいの不合理な綱渡りじゃないですか?っていう出発点についてだいたい語り終えたのが前回のあらすじです。そして今回は、実際の改造風景を。

ちなみに、内装変速やシングルスピードに換装しつつも、チェーンテンショナーとして使うためにディレイラーを残す改造手法もあります。それならめっちゃ話早いです。しかしそれでは耐障害性は一切改善されないため、要は両システムの悪いとこ取りになるので論外です。だから、あくまでもスマートなアイドラースプロケットの配置によってテンショナー不要というのが当初の目標でした。まあ能書きはともかく、実際の改造風景を!

使用工具その1、ボール盤に咥えさせたホールソーが火を噴きます! 最初にじっくり検討して決めた位置にプーリー(アイドラースプロケット)を固定するためのマウント類製作です。一般的な工業界の感覚で言うと、精密加工を可能にするフライス盤とかでなくこんな安っぽい道具でこういう部品を作るのは馬鹿です。でもフライス無いし。

穴あけ箇所が多いので、穴あけリストを作りました。こういう加工は基本的にドリル径の細いものから太いものへと順に加工し、それに合わせてボール盤の回転数も調節していきます。そこで戻りが発生すると作業効率が大きく落ちますので、このサイズのキリはこの部品のあの箇所とあの部品のこの箇所に開けるんだよ、ってのを毎度考える手間をカットします。これは正解でした。

このブランクを切り出している段階で材料に切削痕が多いことから分かる通り、どれもこれも端材の再利用です。材料の歩留まりというのは工業的に重要な要素なのですが、まあそんな商業上の採算性は置いといて、変な形の余り材料をかなり無駄なく使えたというのはモッタイナイ精神の点からも高評価です。私の中で。そのために設計上の制約を強いられた部分もあるのですが、幸い何とかなりました。

また、いくつかのブランク材同士、穴位置を合わせるために接着してから穴を開けたりしています。クランプして瞬間接着剤を流し、加工した後で炙って剥がすという手順です。これも期待通りの効果で作業を楽にしてくれました。

今回習得した加工方法。鉄もアルミも木材も切れる切断機を最近買ったのですが、ワークピースの固定方法を工夫すれば色々な切り方ができると気づきました。

最初のブランク(だいたいの外形)を大きめに作っていたので、ギャギャンとトリムしたり。

全くどうでもいいのですが重量を計ったりもしてみました。重さとか漕ぎの効率といった面でハンディキャップを背負うのは重々承知していますので、どうでもいいです。

…と言っても軽いに越したことはないので、強度を要求されない場所を吟味してどんどん肉を削いでみます。意外と軽くなりました。

ドリルでボスボス穴を開けたり、その間を適当なビットで削ってつなげたり。このビットは20年以上前に安いセットで買ったものなのですが、不思議とまだ活躍してくれています。めっちゃ安物のセット品だったのに。

こういうことしてると自分神経質だなーと思いますが、軽量化のために開けた穴に泥が詰まったりしては本末転倒ですから、塞いだりします。このスポンジ状のものはホームセンターのシリコンシーラント(コーキング)売り場にあるバッカー材です。実は、塗装時にネジ穴をマスクするときなど、適当にちぎって突っ込めるので、サイズをいくつか揃えておくととっても便利です。軽いし安いので。

まあ適当にやってるように見えるとは思いますが、実際それなりに大変な作業でした。特にこの部分。

プーリー3個のうち1個は、チェーンの伸びを吸収する目的もあってテンショナー機構を設けました。BB基準で位置決めしている他2箇所と違い、フレームのチェーンステイに固定する部分です。他の設計をがんばったのでテンションをかける方向には数mmのストロークで間に合うのですが、大変なのはその土台部分。チェーンは車体の中心線と平行ですが、この部分のフレームはそうではありません。なので、車体中心線とフレームチューブ中心の2つの基準平面を意識する必要がありました。

また、この部分。

上側、つまりテンション側のプーリー台座です。一般的な自転車のチェーン脱落防止機構は下側、つまりたるみ側に設けます。しかし今回は静的配置のアイドラースプロケットでチェーンの張りを一定に保ちたい!絶対!という課題がありますので、結果として張り側にもプーリーを設置せざるを得ませんでした。その場合に何が問題かと言うと、ペダルを漕ぐ力がプーリーに大きくのしかかるということです。そのため、この部分はかなりの強度的余裕を持たせる必要があり、たるみ側の場合と同じに考えていると簡単にプーリーがちぎれることになります。この部分のフレーム固定ブラケットをかなり頑丈に作ってあるのもそれが理由です。

最近ではCommencalやNorcoなどハイピボットでそこにアイドラーを入れる設計も増えているようですが、テンション側ということでスラック側よりずっと強度を担保できる設計にしていると思います。まあ実物あんまり見てないんですけど。

さあ、ここまで嫌というほどアルミを削ってきたので、そろそろ鉄でも削りましょうか。

最後の踊りは丘を駆け下りながら(2)

さて、ビンテージと言うには新しく現役と言うには古ぼけたダウンヒルバイクを魔改造するお話の続きです。メインディッシュは内装変速化。その理由をちょっと説明しましょう。

一般に、スポーツ自転車の変速装置はディレイラーを用いた外装変速が主流です。並列配置された複数のスプロケット間をチェーンが脱線移動して変速します。ロードレースの最高峰ツール・ド・フランスも、マウンテンバイクのワールドカップも、基本的にはこればっかりです。長年の改良により現在の駆動効率は95%程度と言われており、これはかなり優秀な数字です。一方、内装変速の場合はそれより数%効率が落ちるとされています。

しかしMTBは悪路を走るもの。低い位置に張り出したリアディレイラーが岩などにぶつかって走行不能になることもあります。実際に、私がダウンヒルのJシリーズを走っていた頃、富士見で毎回ぶつかる岩がありまして、ラン1回につきディレイラーハンガーをきっちり1個ずつ壊したレースがありました。おちおち試走もできませんし、曲がったディレイラーでチェーン飛び飛びになりながら下りてくるタイムロスを考えると、駆動効率の差がひっくり返ることもあります。

これを軽く数学的に考えてみましょう。ちなみに条件は全て適当です。

外装変速で何も問題なければ4分でフィニッシュできるダウンヒルコースがあったとします。内装変速では漕ぎの効率が落ちるとはいえ、ダウンヒルでの加速力の大半は重力によるものなので、まあかなり贅沢に見積もったとして漕ぎによるタイム差は1%。2.4秒遅くなります。そこそこ、勝敗や順位に大きな影響を与えられるタイム差ではあります。一方、毎回ディレイラーを岩にぶつけるのはやりすぎだとしても、最速ラインを攻めてたらそんなこと言ってられません。5回に1回ぶつけてみましょう。それでも機能に支障のない場合もあれば走行不能でフィニッシュラインにたどり着けないケースもあるでしょうが、まあ漕げなくなって平均20秒ロスするとしましょう。すると期待値としては理想シナリオの4秒落ちとなり、1.6秒差で内装変速に負けます。

実際にはもっと変数が多くあり、まず内装変速の方が現状システム全体として重いため不利です。しかし一方、外装変速では禁忌であるペダルの逆回しなど気軽にホイホイやっても内装変速ならトラブルにつながらないという自由度もありますので、その辺はざっくり相殺しましょう。ということで、内装変速の勝ちです。第一トラブルを気にして走っても楽しくないですし。

以上はレースを基準とした話なので、一発の速さがある外装変速を選ぶ根拠を否定することにはなりません。しかし現在の私のようにダウンヒルを楽しく遊びたいという場合にはパフォーマンスを期待値で判断することは重要ですし、何よりメカニカルトラブルで死んだ目をしながら6分目のフィニッシュラインを並足でくぐる屈辱とかほんと要らないです。

ついでに言うと、これはストリートでも外装変速から内装変速に移行して結局シングルスピードに落ち着いた私の過去の経験と大きく重なるトピックでもあります。ただ大きな違いは、スピード域の幅が広くまた結局は時計との争いであるダウンヒルという種目において、やはり変速はあった方が良いという前提条件のもとで最適解を追い求める作業であるという点です。設計要件が手元に揃い、その中で相克する設計上のジレンマを見極めてそのバランスを取る作業というのは、エンジニアにとっては最高のオカズです。

と、まあ一通りの理由付けも済んだところで、こんな偏執的なこだわりのために他の全てを犠牲にしてどんな魔改造を施したのか、また改めてお伝えしてみるとしましょう。というか、何となく3部構成と言ってみたものの、妙なこだわりが溢れ出しすぎてもっと長くなりそうです。気が向いたらお付き合い下さい。

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