76年生まれの訃報

昔々、BMXから転向して初期のMTBレースシーンを席巻したジョン・トマックというライダーがいました。さらに後年ロードレースにも進出したのですが、その頃聞いたニュースで、集団走行中に前で転倒した選手を避けようとして失敗し、結局クラッシュしたというものがありました。避けると言っても、バニーホップで飛び越えようとしたそうです。そういうアプローチ、私は嫌いじゃないです。でも、そういうアプローチをする人がもっと悪い結末を迎えるというニュースは嫌いです。

登山家のウーリ・シュテックが数日前に他界したそうです。個人的な知り合いではないですが、同い年ということもあり、とても残念な知らせでした。

ご存じの方も多いかと思いますが、「スイス・マシーン」と呼ばれたウーリは超速のクライミングで名を馳せ、世界の名だたる登山家がビバークしながら数日かけて登るようなアイガー北壁を2時間台で登った男です。そのイメージとは裏腹に非常に慎重なクライマーだったという話も聞こえてきますが、それはまあ当たり前だと思います。慎重さ無しにあんなことをやっていたら、何十年も登り続けること自体が不可能です。文字通りにワンミスが命取りですから。

彼が体現してきたような先鋭的登山(という用語自体はかなり古くからありますが)に私がワクワクするのは、私のスポーツである自転車などにも通じる一つの啓示があるからです。それは安全性にまつわるジレンマにどう対処するかというスタンスの問題でして、端的に言えば装備を削り、ロープさえ持たずに早く登った方が安全なこともあるということです。競輪の自転車にベルとかブレーキとかが付いていると却って危険であるのと同様、高山で必要以上の安全確保に時間を費やすのは天候や体力、装備重量などあらゆる面で愚策でしかありません。しかし、「必要以上」というのがどのくらいを指すのかは本人の技量に大きく依存しますので、客観的な議論はほぼ不可能です。唯一分かりやすい指標というと「山で死んだかどうか」になってしまいます。

ウーリがそっち側に行ってしまって残念だけど、彼が世界中に与えてくれたインスピレーションはなくならないでしょう。安らかに登り続けて下さい。

時々めぐってくるあのCAD熱

いよいよこの辺りも桜が咲き始めたようです。未確認ですが。

そんな外界には目もくれず、ここ最近は日がな一日絵を描いて遊んでいます。

インボリュート曲線の作図中。工業的には、歯車なんかによく使われます。また、その昔には神様がアンモナイトを作る時にもこの曲線をGコードで打ち込んでマシニングセンタで削り出し、それを原型としてあとは射出成形で中国あたりで大量生産して、世界の海にバラ撒いたそうです。約4億年前、まだ3Dプリンタが無かった時代のお話です。

インボリュート曲線は歯車の他にも動力軸端のスプラインに使うことが多いです。例えば車のドライブシャフトとかステアリングシャフト、自転車なら一部のBBシャフトとクランクの結合部やリアスプロケット嵌合部ですね。ただし、歯車状の断面を持つインボリュートスプラインはここ数十年で少しずつ広まってきた程度のもので、特に自転車では旧来のストレートスプラインに阻まれて普及が遅いと感じています。よくあるカセットコグの角スプラインなんて円周上に金正恩を9人並べたようにしか見えないですし、BMXのBBシャフトの48スプライン(確かSAE J500とかの旧規格)だって工業規格としては時代遅れもいいところです。まあ、それで何か問題があるかと言えば、性能が悪いし壊れやすいし合理的じゃないって程度のことなんですが。

このように一つ一つの機械要素を見直して図面引いて工場に作らせれば、地球上で最強の自転車の出来上がり。自転車メーカーとは、かくもシンプルなお仕事です。NSPではこうして日々車輪の再発明に勤しんでいます。

「タナトス」がE-グラビティバイクへと進化

先週の台北サイクルショウは電動自転車の祭典でした。工場はEバイク製造を売りにして、自転車メーカーはEバイクのラインナップに力を入れ、ユーザーは最新のEバイクを見に来ます。NSPも例外ではありません。我々も人力で自転車をバニーホップさせるのはもう飽き飽きしており、新しい道を進むことを決断しました。そしてついに、フラッグシップであるタナトスを世界初のEグラビティバイクとして生まれ変わらせる運びとなったのです。

高性能な18ボルトバッテリーを電源とし、シートチューブ内に格納されたデュアルコニカルコイル式反重力装置により労力フリーの空中浮揚を実現します。上の写真ではG値を0.1に設定しており、自転車は浮く寸前なので支え無しで自立している状態です。負のG値パルスを与えることで、自転車が地面から跳ね上がります。

バッテリーを差し込むコントロールボックスはBluetoothによるワイヤレス制御となっており、各種モバイルデバイス、または頭にBrainDockが装着済みであればそちらからもG値信号を送信可能です。

また、1より大きなG値を与えることも可能です。この場合、自転車を地面にめり込ませるように下方に引く力が発生します。

今回のモデルチェンジに伴い、在庫の人力型タナトスフレームをクリアランス特価66,200円にて販売中です。オールドスクールな人力派の方は、行きつけのお店に急ぎましょう!

溶接機に悩む

溶接作業環境なしでは生きられなくなってしまった弱い私の心は今、溶接機を買い足そうか悩みまくっています。具体的には、エンジン溶接機を買ってしまおうかなという、DIYレベルで言えば6合目から7合目くらいの検討事項です。

ちなみに、以下溶接について語りますが、私はあくまでも素人ですし、上手くもありません。ましてやうちの自転車製品を自分で溶接したりもしていません。リビドーバイクカンパニーの自分用初期プロトタイプくらいまでなら自分でやるのもアリですが、そういうDIY程度のお話が今回の対象範囲です。

溶接というのは金属などの素材を溶かしてくっつける技術で、かなりの幅があります。代表的なのは電気アークでバチバチやるものです。他には、ガスで炙って溶かしたりとか、摩擦圧接とか、レーザーを使ったり高周波でチンしたり、素材や目的によって様々です。そして、それぞれの手法について専用の道具が存在するわけです。

エンジン溶接機とは一般に、電気アーク溶接のうち被覆アーク溶接(建築現場でよくバチバチしてるアレ)という手法に用いる道具の一種です。ちなみに自転車のフレームでよく使われるTIG溶接や、自動車業界ではDIYからメーカーの機械化ラインに至るまで登場機会の多い半自動溶接なども電気アーク溶接ですので、被覆アーク溶接を「アーク溶接」と略すのはやめましょう。略すなら「被覆アーク」か「手棒」の方が良いです。同様になぜかエンジン溶接機のみを表す言葉のつもりで「ウェルダー」と言う人も在るようですが、「『トラック』と言えばダンプトラックを指すに決まってるだろ」てな主張と同レベルで無茶なのでやめましょう。

で、本題の溶接機選びなのですが、鉄もアルミもチタンもやりたいならTIGです。アルゴンガスの用意とか、敷居はやや高いですが。鉄やステンレスのやや薄い物をなるべくキレイに簡単に、というなら半自動です。いわゆるノンガス半自動なら、道具も技術面でも最も敷居が低いと言えるでしょう。鉄系だけでいいんだけど、たまには板厚6mmとか10mmとか厚物もやりたい、練習の苦労は厭わない、好きな言葉は「ロバスト性」、というなら手棒になるわけですが、手棒の溶接機選びはかなりトリッキーなのです。

パッと見、手棒の溶接機ってめちゃめちゃ手頃です。100V電源用の機械だと下は1万円以下のものまで色々とあります。しかし、5分もネット検索すれば大体つかめることを改めて強調させてもらいますが、100Vの手棒溶接機はゴミです。ごく簡単に理由を説明するなら、100Vコンセントからは、規格上、溶接に必要なだけの電力を取り出せないからです。「USB電源で使えるお手軽ミニ電子レンジ」みたいなものが無理なのと一緒です。

100V手棒機の立ち位置を自転車で例えれば、MTBルック車です。どちらもホームセンターでいくらでも売っているけれど、プロでもアマチュアでも本気の人は検討する価値のない選択肢です。いくら工夫しようと腕を磨こうと魔改造しようと、どうにもなりません。さらに100V機は、MTBルック車よりたちが悪いことに、悪い道具でがんばった経験が後の肥やしになる率も低いと私は思っています。なぜなら、きちんと溶け込まさった溶接という感覚を知ることができないからです。

「溶け込み」という溶接用語は、英語に言い換えて「penetration」と言うと意外に分かりやすいのですが、どれだけ奥までズガーンと溶かさったかということです。溶接目の盛り上がりはあって当然なのですが、その下の部材間の境界部分が溶けていることが重要なのです。ある程度の溶け込みが達成できないなら、溶接構造にする意味がありません。ボルト・ナットやリベット接合の方がマシです。機材が悪くて溶け込まないから薄物オンリーで…って言うんなら、半自動とかTIGにすれば?って話です。限界の低い機材は、大抵その限界内でも性能が低いもんです。

一方、100V手棒機より安いくらいの道具コストで鬼溶け込みを得る手段として、「カーバッテリー3個直結からの直流手棒溶接」なんてのもあります。実際かなり使えます。ただしこんな悪魔との契約みたいな美味しい話ですから裏はありまして、まず色々と危険です。機材も長持ちはしません。

カーバッテリー溶接の問題として、作業中のバッテリー消耗が激しく、常に同じ条件での作業が不可能なので、練習効率が悪いこともあります。これはスポーツでも人格形成でもペットのしつけでも何でも同じことですが、何かをまともにやるには一定の環境が必要です。その中でみな、自分のアクションに対してどういうリアクションが返ってくるのかという情報を元に、基礎を習得し、動作や行動を最適化させていくわけです。スカッシュボールを壁に打って跳ね返る方向が毎回ランダムだったら練習にならないし、「待て」とか「ヨシ」みたいな号令やその意味するところ、守ったときの報奨や違反したときの懲罰が毎回違ったら混乱するし、ストレスにもなるわけです。

ではDIY用途で溶け込みバッチリ、ストレスフリーな手棒機材をどう選ぶか、というと、200V電源機なら割と何とかなるようです。そして、200V環境が手に入らない場合のラストリゾートとして、エンジン溶接機の出番があります。本当はTIGだって何だって欲しい私ですが、たまに溶接したくなる厚物対策として、またいつか起きるかもしれない停電対策として、エンジン溶接機(大抵は発電機としても機能します)いっちゃうか、というのが現在の流れです。

というか、つい今しがた、この文章を書いている最中に一気にポチッと買ってしまいました。ちょっと出物があったもので。テンション上がっているのが半分、本体重量80kgにビビっているのが半分といったところです。まずは、荷降ろしのために慌てて身体を鍛えないといけません。

道具作りとハブ分解の日

弊社製品「Clicker Hub」の在庫はけっこう豊富なのですが、ちょっと思いついたことがあるので幾つか全バラにしてみました。

ほとんどの部分は大した工具なしで分解できてしまうのですが、1箇所難関があります。

このラチェット機構のハブ側、鋼のギザギザの輪っかがハブシェルにねじ込んである構造です(まあよくある造りです)。で、このハムスター洗濯板みたいなのもこの際バラしたいわけです。そんな工程なんて聞いたことないというか、それ用の工具なんて見たことないというか、普通は外さない前提の部品です。ペダルを漕ぐたびにネジが締まりこんでいく方向に力がかかりますし、逆向きにはうまい取っ掛かりがないわけで。うむむ、作らなきゃ、工具。

最初は分厚い鉄板から切り出すのか~、ダルいな~、と思ってましたが、工具を作るには工具から作るのが早いだろうとひらめきまして。工具箱を漁るとACSのフリーホイールリムーバーが直径ドンピシャです。ここ10年使ってない工具だからどうしちゃっても良いでしょう。四ツ爪ってのも最高です。2つでは工具としての安定感に難があり、3つだと製作中に直径寸法が測定できないからです。

何やらものづくりの神様が降りてきたらしく、目見当でハンドグラインダーを振り回すことしばし、サクッと完成しました。もともと引っ掛かり代がないところを何とかする工具なので、余分な遊びは厳禁です。かと言って叩き込んで使うようだとハムスター洗濯板を傷つけてしまいますしネジを回す抵抗も増えますから、クリアランスはゼロから100分の5mmくらいで。で、その通りにできちゃいました。

このように万力に固定して使うと楽です。新品だとそんなに鬼締めしないものなので、手でグイッと回せば外れます。キツければ、ハブシェルをヒートガンで少し炙ります。ハブシェルのアルミの方が鉄より熱膨張係数が大きいので、ほんのり温めればもう余裕です。

というわけでさっぱりとひん剥いてみました。さて、どうしようかな。

  • 記事カテゴリー

  • 月別アーカイブ