雑多なブログ記事

ものづくり考

「ものづくり」に対するこだわりというものが、日本の産業界の強みとしてよく言われます。製品の完成度を高めること、不良品率を限りなくゼロに近づけること、などなど。

製造業におけるそうした特色は、確かに存在します。一方、デフレーションと、消費者がそもそも完璧な製品を求めるよりも価格に動かされているのではないかという割り切った判断のもと、またコストの制約から生産拠点の海外シフトが進む中、そうしたキャラクターが揺らいでいるのも事実でしょう。

…という大きい話は置いておいて、私の愛するDIYの世界では、ものづくりに関する日本の立ち位置が微妙だな~、と感じた話をします。

最近、ひょんなことからサイレンとキルスイッチと蜂の巣が装備された自動車を買いました。ちょっと自分色に染めてやろうと思いまして、色々と改造をしている最中です。メインのひとつは、ボディリフト。車のボディ(ウワモノ)とシャーシ(背骨)の間にゲタを履かせて高くして、隙間ができた分だけ大きなタイヤを履いて幸せになろう、という企画です。大事な部分を自分で工作するのはたいそう緊張するもので、失敗しないように情報収集をしました。その過程で日本と海外の四駆いじりの現状を垣間見たのですが、ちょっとこれはいかがなものか、と感じることがありました。

ボディリフトを単純に説明すると、ボディとシャーシがネジで締結されている箇所にブロックをはさみます。車種によって違いますが、すごく大雑把に言って10箇所ほど。例えば高さ50mmのブロックをかますと、半径が50mm大きなタイヤを履けます。すると車軸より下のクリアランス(最低地上高)もまた50mm高くなり、走破性が上がります。その割に、エンジンやサスペンションやらといったシャーシ側の構造は変わっていないので、車の動力性能は目立って悪化しません。(他の方法、例えば長いバネを使って車高を上げる場合は、それなりの弊害があるため、ある程度の割り切りが必要です。)

この時に用意するものとして、ブロックはもちろんですが、その分長いボディマウントボルトが必要になります。ここが重要なポイントです。このボルト選びに、加工する者の資質が透けて見えると言っても過言ではありません。

で、見ていてぶっ飛んだのが日本の例。「ステンレスのボルトを特別に用意して入れました!」って。ステンレスというのは鉄系の合金で、錆びにくいのが利点なのですが、強度が低いんです。ただでさえ改造して負荷が増大した箇所に、純正よりも強度の低い部品を使うというのは、自殺行為です。一方アメリカの四駆フォーラムでは、自作ボディリフトをしたいという新米にベテランがアドバイスします。「グレード8以上のボルトを使え」と。さすが、DIYと言えば溶接機を持っていて当たり前なお国柄です。ちなみにグレード8というのは、日本を含めたISO系の工業規格での強度区分10.9に相当する高強度ボルトです。自転車でもおなじみのクロームモリブデン鋼でできています。ネジというのは見た目が似たようなものでも、材質や製造方法によって強度に何倍もの差があるのです。ステンレス愛というのは、DIY道の1合目か2合目あたりで多くの人が引っかかるポイントに見えるのですが、もしもステンレスがそれほど優れた材料なら、船舶がいまだに鉄で作られているのは何故でしょうか?

また、ブロックの材質も問題です。日本では、鉄のブロックを入れていてボディにヒビが入ったとか、アルミのブロックでアルマイト加工の色がキレイだとか、そんな話が多いです。一方、アメリカやオーストラリアでは、主流は樹脂系にシフトしつつあるようです。ナイロン66とか、超高分子量ポリエチレンとかです。これも、部材に要求される強度や特性を考えれば合理的なチョイスです。

「どんな仕様でも、実際に壊れないならいいじゃん」という考えもあるかも知れませんが、それは違います。自動車部品の設計基準を大雑把に推測して、安全率が2だとしましょう。つまり、通常使用で想定される負荷の2倍で壊れる設計ということです。なぜ安全率を高くするかというと、製造上の誤差や使用上の過負荷、経年劣化などに対して余裕を持たせるためです。で、適当な改造をして強度が半分になれば、通常使用では壊れなくても、その先のマージンが全く無いわけです。さらに、そうした設計思想に理解が無いレベルの加工者であれば、安全率が1を下回っていてもイザという瞬間まで気づかないわけで。

私は結局、自分の車種がマイナーすぎて既成の改造キットも無く、また自分が求めるものも十分に具体的であったことから、イチからボルトを手配し、ブロックも国内のプラスチック屋さんに特注しました。このブロックがまた素晴らしい出来でして、今まさに撫で回しながら甘いため息を鼻から噴出しているところです。そう、日本のものづくりは健在なのです。ただそれが、本当にそれに値する豊かな土壌にあまねく降り注げば素晴らしいと、私は願うのです。

*2016-10-29追記: ボディリフトの単純な説明のところ、分かりやすいようにちょっとだけ書き直しました。