昨今の新型コロナウィルス蔓延に伴い、また変な和製英語が誕生したようです。2020年にもなって政治のトップがまだこんな雑な仕事をしているとは。
「感染爆発」の意味で「オーバーシュート」というカタカナ語がさんざん連呼されてきましたが、これ嘘です。「パンデミック」の方がむしろ近いですが、そもそも日本語の「感染爆発」でいいじゃん。
オーバーシュート(overshoot)という単語自体は、当社の得意とするアクション系自転車をはじめ、バスケットボール、スキー、スノーボード、モトクロスなど、スポーツ方面ではよく使われる言葉です。基本的な意味は、飛び過ぎること。ジャンプで狙うべき着地位置やボールを落とすべき着弾点を越えてしまうことです。わかりやすく図解でどうぞ。
まずは狙っていきまして…
結果として短すぎた場合 ↓ 「ゲシる」ケースもこれに相当します。
そして、フカした場合 ↓
このように、オーバーシュートというのはそもそも「狙った、または想定されたターゲットを越える」ことが最重要概念です。今回のように未知の伝染病について話をしているなら、そこには既定の着地点などなく、それゆえオーバーもアンダーもへったくれもあり得ません。
こんな事態が発生した経緯を親切に想像してあげるとすると、「一定の条件のもとでこれだけの感染拡大が見込まれるが、ある条件をこう変えるとその想定を上回る感染爆発が起こる」というような内容の英語文献がどこかにあったのでしょう。そして、それを文脈無視で解釈して「overshoot(想定を上回る感染爆発)=『感染爆発』」という短絡的かつ文脈依存的な解釈が一般的定義として成り立つと考えた人がいたのでしょう。カタカナ語好きなそういうセグメントに贈る優しい言葉があるとすれば、それはリテラシーの欠如です。きちんと日本語で言うと、文盲ってことです。
高校時代、英語の授業教材で犯罪サスペンス的な題材がありました。マフィアのボスが部下に命令します。「Take care of him」と。「Take care of」というのはよく使われる熟語で、世話をするとか、面倒を見るというのが主な意味です。しかしそこはマフィア文脈ですから、ボスは「あいつをやっちまえ」と言っているわけです。そこで先生は言いました。「Take care of」には「殺す」という意味もあるのだと。
いや、違うでしょ。文脈によってはそういう意味を帯びることがあるとしても、それを一般的な語義として拡大解釈しちゃダメです。第一、そんなことをしていたら辞書のページがいくらあっても足りません。
特定の状況における知見と一般論をきちんと切り分けるというのは、それなりに難しい作業です。そして言葉というのはなかなか難しいものです。思いの丈を伝えるために言の葉を紡いでも空回りすることがある一方、有りもしない真実を糖衣錠に包んだ言葉が飲み込みやすく思えることもあります。そんな中で伝えるべき本質を見失わないために何が重要なのか、色々と考えさせられる今日この頃です。
まだしばらく試練の日々は続きますが、皆様ご健康に!