なぜか行く先々で会う人ごとに自転車のコース作り談義になっちゃう週末です 。BMXのレーストラック、BMXやマウンテンバイクのパンプトラックやダートジャンプトレイル、スケートパーク、はたまた行われたてほやほやの千葉県のMTBクロスカントリーレースコースについてまで。
まあとりあえず合意したのは、コース作りって難しいね、ということでした。わざわざ人の手を入れてコースを作るということは芸術的創作活動に他ならないからです。そりゃ奥深いわ。もっと毒舌寄りで言うと、身の回りにあるコースはたいがい設計がなっちゃいなくて、危なかったりつまらなかったり、うまく乗れてもかっこ良くなかったり本当の上手さが身につかなかったり、問題だらけだと吠える者もいました。私です。
MTBパークの良し悪しを論じるときの評価基準として最近よく言われるのが「フロー」。英語の「flow」つまり「流れ」です。これを私の言葉に翻訳すると、各セクションの間でスピードの辻褄がきちんと合っていること、です。厳密にはそれだけじゃないですが、特にこのスピード設計がうまくできていないと部分的に鬼ブレーキングや鬼漕ぎ加速が必要になり、気持ち良くないということになります。
簡単にフロー設計の良し悪しの例を見てみましょう。即席抽象絵画「パークレイアウトの1.5次元表現」です。スケートパークの断面輪切り画像だと想像してください。

計画Aと計画B、どちらがフローのある正解か、答えはCMの後で。
ちなみに私、ある程度コース設計できます。というより、2000年のノースショアプロダクツ創業後間もない頃から、ランプやコースの設計製作は弊社業務の一部です。過去最大のプロジェクトだったのは2003年に三重県桑名市のGonzoパークの舗装部分に作ったランプセクションでした。現在では年月と施設の進化に伴い形をとどめていませんが、ちょっと古い人なら知っているし乗っている、あのランプは全て私がイチから図面引いて、数トンの木材を切って、ねじくぎ打って製作したものなのでした。
はい、CM終わり。
Aです。理由は自明だと思うので省きます。大まかな原理だけ説明すると、ランプとは速度を高さ(位置エネルギー)に変換する装置である、ということ、あと速度とランプの円弧半径は比例するべき、というあたりが重要です。この例はランプですが、ダウンヒルでもスラロームでも「スピードの辻褄」という視点はそのまま使えます。別にBのような形だってストリートに存在すればご馳走ですが、コースとして造成する際にわざわざ乗りにくいものを作るのは誰得?ってことになります。
で、なぜ巷にはフローに欠けるパークがちょいちょい発生しちゃうんだろうという疑問に対し、私はひとつの仮説にたどり着きました。あれって、モータースポーツでよくあるようなコースレイアウトを考えなしになぞった結果なんじゃないでしょうか。高速セクションの後にシケインが出現するアレです。なぜモータースポーツでそれが成り立つかといえば、それは加速も減速も技術だからです。簡単に言えば、アクセルやブレーキのペダルをどう踏むか、だけです。一方、グラビティースポーツでは勝手が違います。加速をグラビティー(重力)とその応用(パンプ力とか)に委ねることが楽しさのキモであり、減速はその阻害要因でしかないからです。
ひとつヒントになりそうなジャンルとしては、グラビティー寄りのモータースポーツが挙げられます。端的に言うとイニシャルDの世界です。そこには機材の均質化が著しいモータースポーツのトップカテゴリー(F1とか)とは違う技術体系と美学があります。ただしそこにおいても、減速は技術です。ABSよりも精緻な人力ブレーキングには価値があります。しかし一方加速力とは、ズバリ金の力です。だから尊敬されません。
なので、イニDよりもさらに技術至上主義的である純グラビティースポーツにシケインみたいなフィーチャーを持ち込むのは愚の骨頂でしかないわけです。まあ減速は技術だけど加速力は脚力。そういうもの求めてグラビティースポーツやってない。ただし例えば、フロー感の良すぎるパークばかり乗っていては自然地形をうまく乗れるようにならないから、雑草の強さを身に付けるために敢えてシケイン作って流れに変化を持たせる、みたいな育成視点の逆張りアプローチはアリでしょう。ただそれにしたって、乗りやすいパークが既にいっぱいある場合のオプションなわけで、少なくとも現時点における日本の乗り場環境は全くそういう段階には至っていません。
一方で、クロスカントリーのような体力系種目でもMTBとしてのアイデンティティーを保つためにはジャンプセクションくらい入れ込んでおかないとね、という近年の方向性があります。それはそれで私も好きですが、そこにフローがあるかどうかが問題です。別の言い方をすれば、ジャンプを含めたコース設計の中にきちんと必然性があるかどうかです。
ロッククライミングなんかでも同じことですが、流れがあって美しいラインには必然性があり、ストーリーがあります。その中にランジムーブがあればそれはカッコいいけど、ただ飛んでるからカッコいいというレベルの話ではありません。これはもう絵画でも音楽でも工業デザインでも同じことで、「そこにその要素がある」ことに必然性と意味があるとき、人はそれを「美」と呼びます。そんなコースを作りたいし、乗りたいな。