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平野歩夢が世界を救った日

北京オリンピック、色々ありましたね。選手個人のパフォーマンスや違反行為にとどまらず、競技運営上の問題までもが山ほど噴出しちゃってびっくりです。

例えばフィギュアスケートのカミラ・ワリエワ選手。ツッコミどころが多すぎて闇深き地雷原の様相です。そもそもなんでドーピング陽性なのに出場できんの?とか。

スキージャンプ混合団体のスーツ失格問題。「たまたま担当者が厳し目でした」なんて、言い訳としては下の下です。正しく厳しいのは構わないから、それじゃ毎回ソイツ連れてこいよ、って話です。ルールの適用に一貫性がなければ、競技自体が成立しません。

同じく運営のブレに振り回されたのがスノーボード女子スロープスタイル&ビッグエアのジュリア・マリノ。スロープでは問題視されなかった板のソールに入ったブランドロゴがIOCのタニマチではなかったため、ビッグエア前日に急遽「ペンで塗りつぶすかテープ貼って隠せ」と。ルールのブレ以前に、選手殺しに来てるでしょ、これ。車や自転車競技で「トレッドパターンが不適切だからタイヤにガムテープ巻いとけ」って言われるようなもんです。

そして平野歩夢のハーフパイプ試技2本目。オリンピック史上初、世界最高難度のルーティーンをビタ着し、全地球(ジャッジ除く)が大歓喜したランのスコアが2番手止まり。ジャッジ狂ってる。全地球(ジャッジ除く)も激おこです。

普通ならここで絶望しかないと思います。しかし「そういう怒りも自分の気持ちのなかでうまく表現できた」という3本目で、同じルーティーンの完成度をさらに上げ、寝ぼけたジャッジを叩き起こして圧巻の金メダル。この大舞台で、こんな状況で、これほどまでに心技体の調和した強さを見せたアスリートはちょっと記憶にありません。

もう一つ、夏季五輪出場から半年で冬季五輪へ、というルーティーンももちろん史上初ですね。平野兄弟といえば、インラインスケートの安床兄弟と同様、お父さんがスケートパークを経営する環境で育ってきたことが知られています。それはそれで庭から原油が湧くレベルの当たりガチャに見えますが、何より本人の創造力と努力、そして目的意識を抜きにしては、この若さにしてすでに何年も世界のトップを牽引していることの説明がつきません。むしろラッキーなのは私たちの方で、彼らの滑りをリアルタイムで見られるというのは、本当に幸運な巡り合わせです。

今回のハーフパイプ問題の一因は、ジャッジング基準が「総合印象」のみによっているという競技フォーマットにもあります。ここは今後見直しが進むでしょう。その中で、より高回転高難度がエライのか、それとも回ればいいってもんじゃないのか、という議論にもなりそうです。おそらく高難度志向は避けられないでしょうが、それだけじゃない、突出したスタイルも見たいよ、って人は、今大会での平野海祝のハイエアも必見です。「Kaishu Hirano high air Beijing 2022」てな具合に検索すると良いもの見れます。

このジャッジング騒動、「アユムが3本目を決めてくれたことで私たちは暴動を起こさなくて済んだ」という選手仲間のコメントが全てを物語っています。本当に、この結末でなかったら、世界は分断され、私たちは、正当な評価だとか、報われる努力という概念を失った荒野に放り出されるところでした。

ハーフパイプのみならず、今回の五輪で散見された、競技の成立性やゲーム性を根底から揺るがす諸問題については、基本的には運営側が対処し改善すべきものです。しかし一方、アスリート側が無力であるかといえば、必ずしもそうではない。傑出した能力と集中力をもって、諦めずに挑めば、人々を魅了し、自分の夢を叶えるチャンスはきっとある。平野歩夢のランは、どんな言葉よりも雄弁にそれを伝えてくれました。彼の3本目はまさに、オリンピック精神の全てを体現したものだったと言えるでしょう。本当におめでとうございます。